TOP / 技術コラム / 工法解説
工法解説

塗膜剥離工法の比較 ― 剥離剤・IH・レーザー・ブラスト・電動工具・ウォータージェットを、粉じん・廃棄物・向く部位で並べます

2026-09-26 / SANTEC COLUMN

この記事の要点

  1. 塗膜を剥がす工法と、素地を仕上げる工法は分けて考えます。 剥離剤とIHではさびが残るため、塗装の前に動力工具やブラストで素地調整を行います。素地調整程度1種まで仕上げられる方法を、土木学会の報告書(2024年)は「現状では」ブラストのみとしています。
  2. 厚生労働省の注意事項は、剥離剤を湿式、ブラスト・レーザー・IHを乾式の側で扱っています。 鉛を含む塗膜のかき落としは、鉛中毒予防規則で「著しく困難な場合を除き、湿式によること。」と定められています。
  3. 出てくる廃棄物は、工法ごとに違います。 ブラストは研削材が1㎡あたり30〜40kg加わり、IHとレーザーは既存の塗膜だけになります。ウォータージェットでは、塗膜片を含む水の回収と処理が工程に入ります。

塗膜の剥離工法とは、鋼構造物の塗り替えの前に、古い塗膜を鋼材から取り除く方法のことです。 薬剤・熱・光・研削材・工具・水のどれで剥がすかによって、発生する粉じん、出てくる廃棄物、向く部位が変わります。この記事では、国の通達と、土木学会・土木研究所・高速道路会社・自治体の資料を開いて確かめた内容で、6つの工法を1枚の表に並べました。工法ごとの詳しい所は、それぞれの記事へご案内します。

6つの工法の比較表:剥がし方・粉じん・出てくるもの・部位

工法 剥がし方 粉じん 出てくるもの 向く部位 向かない部位・残るもの
塗膜剥離剤 薬剤で塗膜を軟らかくし、手工具でかき取る(湿式) 大幅に抑えられる 剥離剤を含んだ塗膜くず 狭く複雑な部位 さびと黒皮が残る。無機ジンクリッチペイントは剥離できない
IH(電磁誘導加熱) 鋼材を発熱させて塗膜の付着を弱め、かき取る(乾式) 飛散のリスクが低い 剥がした塗膜(シート状) 平らで広い一般部 ボルト継手など複雑な部位。さびの除去は難しい
レーザー レーザー光で塗膜とさびを除去し、吸引する(乾式) 飛散が少ない 吸引した既存の塗膜 狭あい部 大出力の装置は水冷で大きく重くなる。塗装の耐久性は把握の途中
ブラスト 研削材を高速で打ち付けて除去し、粗さも付ける(乾式) 研削材と塗膜の粉じんが発生する 研削材と塗膜の混合物(研削材は1㎡あたり30〜40kg) 広い面。素地調整程度1種 研削材が当たらない狭隘部。設備の置き場が無い現場
動力工具(電動工具) ディスクサンダーなどで削る(乾式) 塗膜が粉じんになりやすい ケレンダスト(回収が難しい) 部分的な除去(素地調整程度2種〜4種) 広い面の全面除去。ディスクサンダーではさびを十分に除去できない
ウォータージェット 超高圧の水の水圧で塗膜とさびを除去する(湿式) 水と一緒に落ちるため抑えやすい 塗膜片を含む水と汚泥 繰り返し塗り替える鋼材、形が複雑な部位、火気を避けたい所 水を集めて処理できない現場。除去後の鋼材は濡れる

表の中身は、末尾の参照資料から引いています。粉じんの欄について、土木学会の報告書(2024年)は、塗膜全体を除去する場合の比較で、剥離剤とIHを「◎(優れる)」、動力工具を「△(やや劣る)」、ブラストを「×(劣る)」と評価しました。

「バイオ」を名前に含む剥離剤は、国の試験の対象にも2つ入っています。剥離剤の節で触れます。

湿式と乾式:国の注意事項は、IHとレーザーを乾式の側に置いています

鉛を含む塗膜のかき落としは、鉛中毒予防規則第40条で「著しく困難な場合を除き、湿式によること。」とされます。厚生労働省の通達は、「著しく困難な場合」を昭和42年の施行通達を引いて次のように説明し、剥離剤の吹き付けなどで作業者が高濃度にばく露するおそれがある場合も含むとしています。

「サンドブラスト工法を用いる場合又は塗布面が鉄製であり、湿らせることにより錆の発生がある場合等をいうこと。」

(厚生労働省 基安化発0817第1号「剥離剤を使用した塗膜の剥離作業における労働災害防止について」令和7年12月26日一部改正 記1)

作業の注意事項の文書は、湿式と乾式の2つです。

IHとレーザーは粉じんの飛散が少ない工法ですが、注意事項の区分は乾式で、呼吸用保護具は送気マスクか、全面形面体の電動ファン付き呼吸用保護具が求められています。IHでは加熱で発生するガス状物質への配慮が、レーザーでは作業場所の近くにいる人の遮光保護眼鏡と、HEPAフィルタ付きの機器による吸引が加わります。

水を使うウォータージェットと湿式ブラストは、塗膜を濡らしながら除去する湿式の方法です。湿式ブラストは研削材と水を同時に吹き付けるため、出てくるものに研削材が含まれます。違いはウォータージェットとサンドブラストの比較で整理しました。

剥離剤:1回で剥がせる厚さは概ね500µmまで。さびと黒皮は残ります

塗膜剥離剤は、塗膜に塗って浸透させ、膨潤・軟化させてから、スクレーパーなどの手工具でかき取る方法です。土木研究所のガイドライン(案)は、塗膜を粉砕しないため、ブラストや動力工具で問題になる粉じんの飛散や騒音が「飛躍的に低減される」と書いています。土木鋼構造物で使われ始めた端緒は、2004年に開発された、有機塩素化合物を含まない剥離剤です。平成27年までに、100万㎡以上の土木鋼構造物に適用されました。

同じガイドライン(案)は、剥離剤に求める性能の1つに、1回の塗付で膜厚500µmの一般塗装系塗膜を剥離できることを挙げています。1回で剥離できる厚さは概ね500µmが上限とされ、より厚い塗膜では塗付と除去を繰り返します。剥離剤で除去しにくいものは、次の4つです。

活膜を残す素地調整程度3種への使用について、ガイドライン(案)は既存塗膜への影響が不明なため、動力工具等の他の方法を検討することが望ましいとしています。

塗布回数の見込み違いは、費用に直結します。東京都の富士見橋の当初設計は、1回の塗布でした。特記仕様書に基づく試験施工で、既存塗膜の完全な除去に3回の塗布が必要と分かり、増額は当初契約金額の約7割にのぼりました。3回の塗布で除去できたのは、防錆層(無機ジンクリッチペイント層)以外の塗膜層です。

剥がした塗膜は、剥離剤と混ざった状態で回収します。剥離剤の塗布量は1回1㎡あたり500gが標準で、土木学会の報告書は、ほかの方法に比べ廃棄物量が多くなる場合があるとしています。

安全面では、剥離剤に含まれる化学物質による火災と中毒の事例が続きました。厚生労働省の通達の参考資料には、ベンジルアルコールを含む鋼構造物用剥離剤を使った橋梁工事で、火災により死傷者が複数出た事例と、閉鎖された空間での吹き付け作業で作業員が死亡した事例が載っています。ベンジルアルコールを含む剥離剤の吹き付けでは、当分の間、送気マスクの使用が求められます。

国土交通省は、剥離剤10技術を同じ試験方法で比べた結果を、平成31年3月27日に公表しました。対象技術の一覧には、剥離剤として「バイオハクリX-WB」(KT-160043-A)と「エコクリーンバイオ」(CB-170030-A)が並んでいます。試験の要求水準の1つは、塗膜除去作業で発生する粉じんの量が「動力工具処理より少ない」ことでした。鉛やPCBを含む塗膜での使い分けは、鋼構造物の塗膜除去|鉛を含む塗膜で湿式が求められる場面とPCB含有塗膜の除去工法と処理期限にまとめました。

IH(電磁誘導加熱):平らで広い面に向き、ボルト継手では適用例が少ない

IHは、コイルに流した電流で鋼材に誘導電流を起こし、鋼材そのものを発熱させる方法で、火気を使わず非接触で加熱します。土木学会の報告書(2024年)によると、鋼材の表面を数秒で150℃〜250℃に上げ、塗膜の付着力を下げて剥がす仕組みです。塗膜の種類にもよりますが、下塗りから上層まで一度に剥離でき、1mm以上の厚膜を剥離できたという報告もあります。

剥がした塗膜はシート状の固形で回収できます。研削材も剥離剤も混ざらないため、廃棄物は塗膜だけです。近畿地方整備局管内の計測を報告した論文も、IHとレーザーの特徴として、発生する廃棄物が既存塗膜のみとなることを挙げています。

向かない部位と制約として、報告書は次の4点を挙げました。

粉じんの面では、作業区域全体の濃度は低く第1管理区分だった一方、作業者の近くの鉛は第3管理区分となった報告があります。PCBを含む塗膜では、近畿地方整備局管内の計測で、作業員の呼吸域にPCBを含む粉じんが発生しています。レーザーを含めた同じ計測で、ダイオキシン類はすべての作業区画で管理すべき濃度を超えました。

中国地方整備局の新技術一覧(令和6年4月1日時点)には、IHの塗膜剥離機(KT-210089-A)が載っています。

レーザー:狭あい部に向き、塗装の耐久性は把握の途中です

近畿地方整備局管内の論文によると、レーザーは、レーザー光を集めて照射し、母材に傷を与えずに、さびや塗膜などの付着物だけを除去する方法です。土木学会の報告書(2022年)は、塗膜やさびと同時に塩分も除去でき、粉じんの飛散が少なく、光が当たれば処理できるため、狭あい部への適用性が従来工法より高いとしています。

同じ報告書には、ブラストや動力工具と比べた塗替え塗装の耐久性がどの程度かは「把握できていない」との記述もあります。出力の大きな装置には水冷が必要で、寸法と重量が大きくなることが多いとも書かれています。NETISの登録状況、PCB塗膜で発生するもの、耐久性試験の中身は、レーザーによる塗膜除去で原文を引いて整理しました。

ブラストと動力工具:素地調整程度1種は、現状ではブラストで仕上げます

ブラストは、圧縮空気で研削材を高速で打ち付け、塗膜とさびを除去すると同時に、塗装に適した粗さを付ける方法です。土木学会の報告書(2022年)は、得られる処理面を清浄度・表面粗さともに塗装の下地として「現状では最も優れている」とし、大面積の処理に適しているとしています。

出てくるのは、研削材と塗膜の混合物です。土木学会の報告書(2024年)によると、研削材の使用量は通常の塗膜で1㎡あたり30〜40kgで、塗膜が厚いほど増えます。塗膜に有害物質が含まれていれば、研削材ごと管理型産業廃棄物としての処理が必要です。研削材を塗膜片と分けて再利用する循環型のブラストも実用化されました。高速道路会社の要領は、分別が不十分だと塗膜くずを再び吹き付けることになり、粉じん濃度と有害物質濃度が上がる点に注意を促しています。

ブラストが向かないのは、研削材が直接当たらない狭隘部です。ノズルを向けにくい所では、塗膜やさびが残る場合があります。設備の置き場も条件になります。東京都の富士見橋では、橋上にブラスト機を置く場所が確保できず、橋台から桁中央部まで約100mのホースも使いにくかったため、ブラストを不適と判断して剥離剤を選びました。

動力工具は、電気や圧縮空気で動くディスクサンダー、ワイヤホイル、エアハンマーなどで塗膜を削る方法です。部分的な除去には効率がよく、素地調整程度2種〜4種に使われます。土木学会の報告書(2022年)は、構造物全体にわたってさびや旧塗膜を除去する作業には、施工効率の面で適さないとしています。高速道路会社の要領には、ディスクサンダでは「さびを十分に除去できないため塗膜の早期劣化に繋がる」ことを実験で確認した、との記述があります。ブラストが実施しにくい狭隘部については、ブラスト面形成動力工具を用いるのがよいとしています。

素地調整程度の体系(鋼橋の1種〜4種と、建築のRA・RB・RC種)は塗膜除去のRB種とはで、湿式ブラストを含むブラストとの違いはウォータージェットとサンドブラストの比較で整理しました。

ウォータージェット:水圧で塗膜とさびを除去し、濁水の処理が工程に入ります

ウォータージェットは、超高圧の水の水圧で塗膜とさびを除去する工法です。研削材も薬剤も使わない湿式の工法で、火花が出ません。金属は内部に隙間が無く水が入り込めないため、塗膜とさびを除去したあとの鋼材はそのまま残ります。塗り替えのたびに母材が痩せる心配が小さいことは、繰り返し塗り替える構造物で効いてくる性質です。リベットや溶接ビードのように形が複雑な部位にも、非接触の水は入り込めます。水で削れるものと残るものの違いは、ウォータージェットの仕組みに書きました。

中国地方整備局の新技術一覧(令和6年4月1日時点)には、ウォータージェットを応用してコンクリート・鋼構造物の旧塗膜とさびを除去する技術(KT-220012-A)も載っています。申請者が比べる相手に選んだ従来技術は、サンダーケレンです。

段取りの中心は水にあります。出てくるのは塗膜片を含む濁水で、集水・分離・処分の先が決まらないうちは、工程も費用も組めません。塗膜に鉛やPCBが含まれていれば、汚泥の扱いも変わります。除去したあとの鋼材は濡れているため、防錆剤の塗布や、塗装までの時間の管理も工程に入れておく必要があります。

除去した面をどの素地調整程度として扱うかは、特記仕様書の指定を先に確かめてください。排水の段取りはウォータージェットの排水処理に書きました。

組み合わせ:剥がす工法と、素地を仕上げる工法を分けて選びます

高速道路会社の構造物施工管理要領は、人体に影響を与える有害物質を含む塗膜について、除去後の素地調整程度を1種としています。解説には、次の一文があります。

塗膜除去時に粉じんがほとんど生じない技術として、塗膜剥離剤を使用した塗膜除去方法や、電磁誘導熱を用いた塗膜除去方法等が存在するが、鉛丹や鉛系さび止めペイント、凹部、ボルト部、溶接部の塗膜を完全に除去できるまでには至っていない。

(東・中・西日本高速道路株式会社「構造物施工管理要領」保全編 令和5年10月)

同じ解説は、活膜を残す3種にすると、剥離剤やIHで除去したあとの活膜の耐久性への影響が明確でないため1種とし、ブラストを使う作業をせざるを得ない状況にあると続けています。剥離剤やIHで塗膜を剥がし、残った塗膜と素地の仕上げをブラストが受け持つ形です。

ほかの組み合わせも、資料に出てきます。

厚生労働省の湿式の注意事項にも、剥離剤で塗膜を剥離したあと、乾式で最終の剥離を行う場合の記述があります。工法を選ぶ前に、次の順で確かめると組み合わせが決まります。

  1. 塗膜の成分を分析で確かめる。 鉛・クロム・PCBの有無で、求められる作業の水準と、廃棄物の扱いが変わります
  2. 特記仕様書の素地調整程度を読む。 1種なら最後はブラストです。活膜を残す3種なら、動力工具などが検討の中心になります
  3. 部位を分ける。 平らで広い一般部と、狭隘部・継手部とで、剥がす工法を変えられます
  4. 出てくるものの行き先を決める。 研削材、剥離剤を含む塗膜くず、濁水のどれを、どこへ出すかを着工前に決めます

まとめ

塗膜の剥離工法は、剥がす手段によって6つに分かれ、粉じん・廃棄物・向く部位がそれぞれ違います。 剥離剤とIHは粉じんが少なく、さびが残るため、素地調整が別に必要です。素地調整程度1種の仕上げを、土木学会の報告書は現状ブラストのみとしています。

ウォータージェットは、水圧で塗膜とさびを除去する湿式の工法で、母材が痩せにくく、濁水の回収と処理が工程に入ります。部位と求める素地調整程度に合わせて工法を組み合わせる考え方は、学会と高速道路会社の資料に共通しています。

ご相談ください 特記仕様書と塗膜の分析結果を見せていただければ、ウォータージェットで段取りが組める部位と、ほかの工法が合う部位を率直にお答えします。 剥離剤やIH、ブラストのほうが合う部位なら、そのようにお伝えします。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。


本記事で参照した資料

いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。通達と要領は改正が続き、NETISの登録も更新されます。 工法の検討には、発注時点の最新の資料をご確認ください。

よくある質問

塗膜剥離の工法には、どんな種類がありますか?
主に6つです。薬剤で軟らかくする剥離剤、鋼材を加熱するIH(電磁誘導加熱)、レーザー、研削材を打ち付けるブラスト、ディスクサンダーなどの動力工具、超高圧の水を使うウォータージェットで、粉じん・廃棄物・向く部位がそれぞれ違います。
湿式の剥離工法とは何ですか?
塗膜を湿らせた状態で剥がす方法です。厚生労働省の注意事項は、剥離剤を湿式、ブラスト・レーザー・IHを乾式として扱っています。鉛を含む塗膜のかき落としは、鉛中毒予防規則で、著しく困難な場合を除き湿式によることとされます。
素地調整程度1種まで仕上げられる工法はどれですか?
土木学会の報告書(2024年)は、現状ではブラストのみとしています。剥離剤やIHで塗膜を剥がした場合も、1種が求められるなら最後の素地調整にはブラストが必要です。高速道路会社の要領も、有害物質を含む塗膜の除去後は1種としています。
IH(電磁誘導加熱)で、さびも取れますか?
さびの除去は難しいです。IHは鋼材を加熱して塗膜の付着力を下げる方法で、無機系の塗料も基本的に剥離できません。塗膜を剥がしたあと、動力工具やブラストで、求められる素地調整を行います。
ウォータージェットで塗膜を剥がすとき、先に決めることは何ですか?
濁水の集め方と処分先です。ウォータージェットは水圧で塗膜とさびを除去する湿式の工法で、塗膜片を含む水が出ます。除去後の鋼材は濡れるため、防錆剤の塗布や塗装までの時間の管理も、工程に入れておく必要があります。

ウォータージェット工法のご相談はこちら

コンクリート劣化部除去・塗膜剥離・狭所施工まで。現場ごとの最適解を専門スタッフがご提案します。

お問い合わせはこちら →
← 技術コラム一覧へ戻る