この記事の要点
- 鉛を含む塗膜の除去では、鉛中毒予防規則が「著しく困難な場合を除き、湿式によること」と定めている。ただし除外規定が同じ条文にあり、「湿式でなければならない」とは言えない。
- 一方で、近隣配慮のために隔離した作業場や屋内など閉鎖空間では、厚労省通達が「剥離等作業は必ず湿潤化して行うこと」を求めている。隔離するかどうかで要件が変わる。
- ウォータージェットの本質的な利点は、母材を痩せさせないこと。繰り返し塗り替える構造物ほど効いてくる。
橋梁やタンク、プラント設備の塗替えでは、旧塗膜の除去方法を決める段階で、必ず一度は立ち止まることになります。旧塗膜に鉛が含まれているかどうかで、話が変わるためです。
この記事では、関係する条文と通達の原文を引きながら、湿式が求められる場面と、そうでない場面を整理します。そのうえで、剥離剤・ブラスト・ウォータージェットをどう使い分けるかを扱います。
まず、法令が何を求めているか
鉛中毒予防規則 第40条
含鉛塗料のかき落としについて、次の条文があります。
(含鉛塗料のかき落とし) 第四十条 事業者は、令別表第四第八号に掲げる鉛業務のうち含鉛塗料を塗布した物の含鉛塗料のかき落としの業務に労働者を従事させるときは、次の措置を講じなければならない。 一 当該鉛業務は、著しく困難な場合を除き、湿式によること。 二 かき落とした含鉛塗料は、速やかに、取り除くこと。
— 鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第37号)第40条
ここで見落としてはいけないのが「著しく困難な場合を除き」という部分です。 除外規定が、同じ条文の中に入っています。
つまり 「鋼橋の塗替えは湿式でなければならない」とは言えません。 乾式が選ばれる場面は、法令上あり得ます。この点は、ウォータージェットを扱う私たちの立場からも、正確にお伝えしておきます。
厚生労働省の通達(平成26年5月30日)
もう一段、実務に効く記述があります。
3 2により、当該塗料の成分について鉛等の有害物が確認された場合は、当該塗料の剥離等作業を行う事業者は、鉛中毒予防規則等関係法令に従い、湿式による作業の実施、作業主任者の選任と適切な作業指揮の実施、有効な保護具の着用等を実施すること。
4 鉛等有害物を含有する塗料の剥離等作業を、近隣環境への配慮のために隔離措置された作業場や屋内等の狭隘で閉鎖された作業場(以下「隔離区域等内作業場」という。)で作業を行う場合は、当該区域内の鉛等有害物の粉じんの濃度は極めて高濃度になるため、次の措置を行うこと。 (1)剥離等作業は必ず湿潤化して行うこと。湿潤化が著しく困難な場合は、当該作業環境内で湿潤化した場合と同等程度の粉じん濃度まで低減させる方策を講じた上で作業を実施すること。
— 基安労発0530第1号/基安化発0530第1号(平成26年5月30日)「鉛等有害物を含有する塗料の剥離やかき落とし作業における労働者の健康障害防止について」
★ここが実務上の分岐点です。
近隣に配慮して隔離する現場、屋内の現場、タンク内部のような閉鎖空間——こうした隔離区域等内作業場では、「必ず湿潤化して行うこと」と書かれています。第40条のような「著しく困難な場合を除き」ではなく、まず必ず湿潤化があり、それが困難な場合に代替措置、という順序です。
隔離するかどうかで、要求される水準が変わります。 工法を決める前に、隔離が必要な現場かどうかを確認しておく価値があります。
なお、この通達は「湿式」「湿潤化」までしか書いておらず、特定の工法を指名してはいません。 ウォータージェットが求められている、という書き方は正確ではありません。
選択肢は3つあります
鉛を含む塗膜の除去で実際に検討されるのは、おおむね次の3つです。
| 主な考え方 | 母材への影響 | 水の段取り | |
|---|---|---|---|
| 塗膜剥離剤 | 薬剤で塗膜を膨潤させて剥がす | 母材を削らない | 不要(薬剤の処理が必要) |
| ブラスト(乾式) | 研削材を吹き付けて削る | 繰り返すと痩せる可能性 | 不要(研削材の処理が必要) |
| ウォータージェット | 超高圧の水で塗膜だけを落とす | 痩せにくい | 必須 |
正直に申し上げると、鉛含有塗膜の除去では剥離剤が広く使われています。 湿式の要求に応えやすく、水の段取りが要らないためです。ウォータージェットが常に第一選択になるわけではありません。
ウォータージェットが効く場面
そのうえで、この工法が向くのは次のような条件です。
繰り返し塗り替える構造物 — 金属は内部に隙間がなく水が入り込めないため、母材そのものは削れません。表面の塗膜とサビだけが落ちます。塗り替えのたびに鉄板が薄くなっていく心配が小さいので、何十年も使い続ける構造物ほど効いてきます。
橋梁や設備のほか、船体や鉄道車両の外板も同じ性質の対象です。常に風雨や塩分にさらされ、定期的な塗り替えが避けられない一方、外板が薄くなれば強度と寿命に響きます。「塗膜とサビだけを落とし、鉄そのものは残す」という要求が、そのまま設計条件になる領域です。
大きな曲面 — 船体や車両の外板、タンクの側板のように、面が大きく曲がっている対象。刃物や工具は平面を前提にした道具が多く、曲面は苦手です。非接触の水は、面の形に縛られません。
形が複雑な部位 — リベット、溶接ビード、狭所、曲面。研削材や工具が届きにくい形状でも、非接触の水は入り込めます。
火気を避けたい環境 — 火花が出ないため、可燃性ガスが想定される環境でも施工しやすくなります。稼働中のプラントで選ばれるのは、この性質によるところが大きいはずです。
装置によって、1日に進む量が変わります

工期の前提として押さえておきたい数字です。
| 装置 | 施工量の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| マグネットクローラー | 150㎡/日(1台) | 鋼構造物専用。磁力で吸着して自走。圧力〜245MPa、水量30〜40L/分、洗浄幅380〜400mm、約104kg |
| 吸引型アクアブラスト | 約80㎡/日(2ガン) | 削りカスと水をその場で吸引。飛散なし |
| ハンドガン | — | 人が持って施工。狭所・複雑形状に対応 |
マグネットクローラーは遠隔操作で壁面を自走するため、仮設足場を減らし、高所作業の負担を軽減することが可能です。ただし鋼構造物の平滑な面が対象で、どこでも使えるわけではありません。
向かないとき、どうしているか
水の段取りが組めない現場では、この工法は成立しません。
はがした塗膜片と濁水は、鉛を含む可能性がある廃棄物として回収・処理する必要があります。給水の確保、受け皿の設営、廃水の処理と処分——ここまで含めた計画が立たなければ、着工できません。(関連:排水・濁水の処理)
条件をうかがったうえで、別の工法のほうが適していると判断すれば、そのようにお伝えします。
今日、確認できること
- 旧塗膜に鉛が含まれているかを、事前調査の結果で確認する。 ここが分かれ道です。含まれていなければ、選択肢はもっと広くなります
- 隔離が必要な現場かどうかを判断する。 近隣に配慮して隔離する、屋内である、タンク内部である——このいずれかなら、通達の「必ず湿潤化」が効いてきます
- 発注仕様で求められている素地調整の程度を確認する。 工法によって扱いが異なるため、仕様書の記載を見ないと対応可否をお答えできません
3つ目は、図面か特記仕様書を1枚見れば分かります。この1枚があるかないかで、話の進み方がまったく変わります。
まとめ
鋼構造物の塗膜除去では、旧塗膜に鉛が含まれるかと、隔離が必要な現場かの2点で、求められる水準が変わります。鉛則第40条には除外規定があるため「湿式でなければならない」とは言えませんが、隔離した作業場では通達が「必ず湿潤化」を求めています。
ウォータージェットの本質的な利点は、母材を痩せさせないことです。繰り返し塗り替える構造物ほど、この差が効いてきます。一方で、水の回収と処理は必ず発生します。
ご相談ください 特記仕様書と現場条件をうかがったうえで、当社で対応が難しい場合や、剥離剤など別の工法のほうが適している場合はそのようにお伝えします。 株式会社サンテックは1993年の設立以来、超高圧ウォータージェット工法だけを手がけ、年平均92物件・累計1,500件以上の現場を重ねてきました。他社で断られた案件のご相談も日常的にお受けしています。