この記事の要点
- レーザーによる塗膜除去は、研究と現場への適用が並行している段階です。 土木学会の小委員会は2022年12月の報告書で、塗替え後の塗装の耐久性を試験で確かめている途中だとしています。
- NETISには、鋼構造物の塗膜除去に使うレーザー工法が登録されています。 中国地方整備局の一覧(令和6年4月1日時点)に載る2技術は、有用な新技術の区分には入っていません。
- PCBや鉛を含む塗膜にレーザーを当てると、有害物質を含む粉じんが発生します。 近畿地方整備局管内の計測では、作業区画のダイオキシン類が管理すべき濃度を超えました。
レーザーによる塗膜除去とは、高いエネルギー密度のレーザー光を鋼材の表面に当て、塗膜やさびを昇華・蒸散させて取り除く方法です。 土木学会の報告書では「レーザークリーニング」「レーザーケレン」とも呼ばれています。鋼橋の塗替えで旧塗膜を剥がす工法の1つとして、国の工事を使った試験や、学会での耐久性試験が進んでいる段階です。この記事では、国・学会の資料を開いて確認できた範囲で、レーザー工法の現在の位置と、ほかの工法との違いを整理しました。
仕組み:塗膜を昇華させ、飛散物を吸引して回収する
原理についての土木学会の報告書の記述は、次のとおりです。
レーザークリーニングは,高いエネルギー密度のレーザー照射により固体あるいは液体の表面から構成物質が爆発的に昇華,蒸散されるレーザーアブレーションと呼ばれる現象を利用しており,主にパルスレーザーをスキャナでスキャニングし,材料の最表面層に照射することで,表面のコーティング層,あるいはコンタミネーション層(何らかの汚染物質を含む層)を蒸発させる.
(土木学会鋼構造委員会「レーザーによる鋼構造物表面の素地調整技術検討小委員会 報告書」2022年12月)
飛散物は、バキューム装置で吸引してフィルターで回収します(同じ報告書)。母材を傷めないためには、表面の層が昇華するのに必要なエネルギー密度が、鋼材そのものが昇華するエネルギー密度より低くなる条件を選ぶ必要があります。
発振方式は、連続して光を出す連続波(CW)と、短い周期で光を出すパルスの2つに分かれます。報告書の試験では、連続波で処理した面のほうが粗くなる傾向があり、その理由を「鋼表面が溶融していたため」と推察しています。
学会の評価:塗装の耐久性は、まだ試験で確かめている途中です
土木学会の小委員会は、レーザーで素地調整をした鋼板に塗装し、塩水噴霧試験・複合サイクル試験・温度勾配試験・屋外暴露試験を行いました。まとめには次の記述があります。
塗装耐久性試験の結果,付着強度や錆,膨れにおいて,顕著な差は確認されなかったが,試験内容によっては,ブラスト処理よりレーザー処理の耐久性が劣る結果が出ることが確認された.
原因は、報告書の時点では究明できていません。候補として挙げているのは、次の3つです。
- 除錆のときに鋼材の表面にできる酸化皮膜の影響
- さびが完全に除去できていないまま塗装した可能性
- 処理してから塗装するまでの間の戻り錆
報告書は、試験体を処理後すぐに塗装できず、防錆処理をして塗装工場まで運んだことも、条件の違いとして挙げています。屋外暴露試験は、今後も継続して調べる予定です。「ブラストより劣る」と「ブラストと同等」のどちらも、現時点では言い切れません。
評価の方法は、整いつつあります。報告書によると、レーザーで処理した面の除せい度を測る方法が JIS Z 2358「レーザー表面処理面の除せい(錆)度測定方法」として2019年に発行されています。
NETIS:2技術が登録済み、有用な新技術の区分には入っていません
中国地方整備局の「橋梁補修(措置)の新技術」一覧(令和6年4月1日時点)で、塗膜除去に使うレーザー工法を探すと2つありました。
| 技術名称(登録番号) | 一覧の説明 | 申請者による従来技術との比較 |
|---|---|---|
| 回転式レーザー素地調整工法(CB-230005-A) | 高出力の連続波レーザーを高速回転させて照射し、さび・塗膜・塩分を除去する | 経済性△・工程△・品質○・施工性○ |
| 非接触の塗膜除去工法「クリーンレーザー工法」(KK-230042-A) | 高出力のレーザー光線とバキューム吸引で、塗膜・さび・付着塩分を除去する。従来は1種ケレン(ブラスト法) | 経済性△・工程△・品質○・施工性○ |
一覧の凡例では、○が「従来技術より向上」、△が「従来技術より低下・増加」です。この比較欄は技術開発者の申請情報で、一覧の注記は、比べている従来技術は申請者が選んだものだとしています。2技術とも、推奨技術・準推奨技術・評価促進技術・活用促進技術の欄は空欄で、活用効果調査票の提出はそれぞれ1件でした。
NETISの利用上の注意事項には、掲載情報は技術の証明や認証を行うものではないと明記されています。登録番号の読み方と、有用な新技術の4区分は、橋梁補修の「新技術」とNETISで整理しました。
PCB・鉛を含む塗膜:有害物質を含む粉じんとダイオキシン類が発生します
国土交通省近畿地方整備局の大阪国道事務所は、PCBと鉛を含む既設橋の塗膜でレーザーとIHヒーターによる剥離を試し、作業環境を計測した記録があります。論文のまとめは、次のとおりです。
PCB含有塗膜をレーザークリーナー,あるいはIHヒーターで剥離する場合,作業員呼吸域には,PCBを含有する粉じんが発生する.
鉛含有塗膜をレーザーあるいはIHヒーターで除去する場合,作業員呼吸域には鉛を含有する粉じんが発生する.
(近畿地方整備局 研究発表会 論文「新工法による塗膜剥離時の作業環境に関する実験的計測」2022年)
作業区域のダイオキシン類濃度は、すべての作業区画で管理すべき濃度(2.5pg-TEQ)を超えました。 論文は、PCB含有塗膜を加熱するため、ダイオキシン類の発生は避けられないと説明しています。対策として挙がっているのは、適切な呼吸用保護具と経皮吸収を抑える防護服の着用、粉じんの発生源の近くでのHEPAフィルター付き局所排気装置の使用です。
論文は、この結果が狭い空間を密閉した作業で、使った機材と既存塗膜に限った結果だとも断っています。工法の代表値として扱わないよう求めている点も、あわせて読む必要があります。PCB含有塗膜の処分期限と除去の段取りは、PCB含有塗膜の除去工法と処理期限にまとめました。
向く条件:狭あい部と、塩分が残りやすい面
土木学会の報告書は、素地調整が難しい部位として、部材が輻輳している箇所、狭あいで手の届きにくい箇所、高力ボルトやリベットの多い現場接合部を挙げています。レーザーについての記述は、次のとおりです。
レーザー照射によるクリーニングでは,塗膜や錆の除去と同時に塩分の除去ができるばかりでなく,機器も比較的軽量で粉じんの飛散が少ないなど,作業員の身体への負荷も小さいとされている.また光が当たれば処理できるため,狭あい部などへの適用性も従来工法に比べて高いものと考えられる.
実用化に向けた課題の項でも、狭隘部や夜間工事など、目的に応じて適用箇所を選ぶ必要があるとしています。広い平面を速く処理する素地調整と、グラインダーが入りにくいコーナーやスカラップとでは、装置の考え方も投資の効果も大きく変わるというのが報告書の見方です。
制約:レーザー管理区域、装置の冷却、処理後の面
報告書は、現場での制約を3つ挙げています。
- 安全管理。 現場ではレーザー管理区域の設定など、レーザーによる障害を防ぐ予防策が要ります。現場向けの管理区域の設置方針や安全管理体制を明確にすることを、報告書は課題としています
- 装置の大きさ。 レーザー出力が大きくなると水冷が必要になり、装置の寸法や重量が大きくなることが多いとされています。可搬性が求められる場所では、装置を置く場所の検討が要ります
- 処理後の面。 鋼材の表面に酸化皮膜ができるという報告があり、表面粗さも従来工法と異なります。これらが塗膜の耐久性にどう影響するかは、明らかにしていく必要があるとされています
発注の段階では、特記仕様書が素地調整の程度をどう指定しているかを先に確かめます。鋼橋の素地調整程度の体系は、塗膜除去のRB種とはで原文を引いて整理しました。
ブラスト・剥離剤・ウォータージェットとの違い
| 工法 | 剥がし方 | 乾式・湿式 | 出てくるもの |
|---|---|---|---|
| レーザー | レーザー光で塗膜とさびを昇華・蒸散させる | 乾式(溶剤や水を用いない) | 吸引してフィルターで回収する飛散物 |
| ブラスト(乾式) | 研削材を吹き付けて削る | 乾式 | 塗膜粉・研削材の混合物 |
| 塗膜剥離剤 | 薬剤で塗膜を軟らかくし、かき取る | 湿式 | 塗膜くず・剥離剤・養生材 |
| ウォータージェット | 超高圧の水の水圧で塗膜とさびを除去する | 湿式 | 塗膜片を含む水と汚泥 |
土木学会の報告書によると、素地調整には通常、第1種ケレンであるブラスト処理が施され、再塗装でもブラストが求められることが多いとされています。同じ報告書が課題に挙げるのは、ブラストに要る粉じん飛散と騒音への対策と、研削材と旧塗膜の回収・処理にかかる費用と労力です。
レーザーとウォータージェットは、研削材を使わない点で共通しています。違いは、回収するものが乾いた飛散物か、水と汚泥かです。レーザーは吸引装置とフィルターの段取りが、ウォータージェットは集水と排水処理の段取りが、それぞれ要ります。ウォータージェットでは処理後の面が濡れるため、発錆への対策も工程に入れておく必要があります。ブラストとの比較はウォータージェットとサンドブラストの比較、鉛を含む塗膜での使い分けは鋼構造物の塗膜除去に書きました。
まとめ
レーザーによる塗膜除去は、塗膜・さび・塩分を同時に取り除けることと、狭あい部に入りやすいことが評価されている工法です。 NETISにも登録されていますが、塗替え後の塗装の耐久性は、土木学会の小委員会が試験を続けている段階にあります。
PCBや鉛を含む塗膜では、レーザーでも有害物質を含む粉じんとダイオキシン類が発生します。どの工法を選んでも、保護具と回収の段取りは欠かせません。部位の形、素地調整の程度、旧塗膜の成分、回収できるものの4つを並べると、工法ごとの向き不向きが見えてきます。
ご相談ください 特記仕様書と旧塗膜の分析結果を見せていただければ、ウォータージェットで段取りが組めるかどうかを率直にお答えします。 ほかの工法のほうが合う部位なら、そのようにお伝えします。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。
本記事で参照した資料
- 土木学会鋼構造委員会「レーザーによる鋼構造物表面の素地調整技術検討小委員会 報告書」2022年12月(1.2 レーザークリーニングの現状/2.1 素地調整にまつわる現状の課題/2.3 レーザークリーニング適用の課題/第5章 まとめと今後の課題)
- 国土交通省中国地方整備局「橋梁補修(措置)の新技術」令和6年4月1日時点(No.131・No.134)
- 国土交通省近畿地方整備局 研究発表会 論文「新工法による塗膜剥離時の作業環境に関する実験的計測」2022年(イノベーション部門Ⅱ No.03)
- NETIS(新技術情報提供システム)利用上の注意事項
いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。NETISの登録技術は追加・更新され、学会の暴露試験も継続中です。工法の検討には、発注時点の最新の資料をご確認ください。