この記事の要点
- 床版のはつりで問われるのは削る速さではなく、劣化部と健全部の境をどこに置き、鉄筋を傷めずに次工程へ引き渡せるかである。
- ウォータージェットは水で削るため鉄筋そのものは削れず、健全部に微細ひびを残しにくい。新しく打つコンクリートと一体化しやすい下地になる。
- 供用下の夜間規制で一晩に進む量を決めるのは削る能力ではなく、規制の解除時刻から逆算した正味の作業時間と、橋の上から落ちる水を受ける段取りである。
床版は、橋のなかでも輪荷重を直接受け続ける部材です。ひび割れから雨水が入り込むと、劣化は加速します。床版の補修で「はつり」が要になるのは、このためです。
ところが「はつり」という一語には、性質の違う2つの工法が混ざっています。ブレーカーで叩いて砕く従来のはつり(以下「ピックはつり」)と、超高圧の水で削り取るウォータージェットです。この記事では、水で床版をはつるときに何が問題になるのかを、発注する側が判断に使えるところまで整理します。都合の良い部分だけを書くことはしません。
床版のはつりで、実際に問われる3つのこと
1つめ、劣化部と健全部の境をどこに置くか。 取り残せば再劣化が進み、削りすぎれば断面を余計に失います。中性化の進み方は同じ橋でも面によって違い、図面に一律の深さを書いてもその通りにならないことがあります。正直に申し上げると、削り始めてから「思っていた状態と違う」ということは起こります。想定と違ったときの扱いを着工前に決めておくことをおすすめしています。(関連:除去深さと中性化層の考え方)

2つめ、鉄筋を傷めないこと。 床版はかぶりの浅い位置まで削る場面が多く、打撃で砕く工具では鉄筋を曲げるおそれがあります。ウォータージェットは水を 200MPa以上(大気圧の約2,000倍以上)に昇圧し、直径0.1〜3mm のノズルから マッハ1〜3 で噴射して削ります。金属は内部に隙間がなく水が入り込めないため、鉄筋そのものは削れず、付いたサビと脆弱物だけが落ちます。(関連:水でコンクリートが砕け、鉄が傷まない仕組み)
3つめ、新旧コンクリートが一体化するか。 打撃で壊す工具は、削った面の内側に微細ひび(マイクロクラック)を残すことがあります。所定の深さまで取れていても、その下に傷が残れば弱点になります。ウォータージェットはこれを残しにくく、上面増厚や断面修復で新しく打つ材料と一体化しやすい下地になります。(関連:ウォータージェットはつりと打撃のはつりの違い)
橋のどこを、どの道具で削るのか
水をつくる装置は共通で、先端の道具を替えて使い分けます。橋梁では主に3つです。
| 対象 | 使う道具 | どういうものか |
|---|---|---|
| 狭い箇所・入隅・複雑な形 | ハンドガン | 人が手で持って水を当てる道具。狭い所に届く一方、音は約120dBで飛散もあります |
| 表面の浅い処理(目荒らし・付着物除去) | 吸引型アクアブラスト | 削りカスと水をその場で吸い込む一体型の装置。約80㎡/日(2ガン)、約80dB、飛散なし。削れる深さは3mm程度で、深いはつりには使いません |
| 鋼桁・鋼床版の塗膜 | マグネットクローラー | 磁石で鋼板に張り付いて自走する装置。150㎡/日(1台)、洗浄幅380〜400mm、約104kg |
※現場条件により結果は異なります。
鋼桁の塗膜除去でマグネットクローラーを使えれば、足場の負担を軽くできる場合があります。ただし対象は鋼部材で、コンクリート面は人の手か吸引型で追います。夜間規制では約120dBと約80dBの差がそのまま近隣への影響に出ます。(関連:鋼構造物の塗膜除去/騒音・振動・粉じんの実際)
供用下・夜間規制で、一晩に何をどこまで進めるか
橋は通行を止められないことが多く、片側規制や夜間規制を伴う供用下の施工になります。ここで効くのは、規制が「かけている時間」ではなく「解除する時刻」で縛られることです。
| 一晩の中身 | 何をするか | 規制前に前倒しできるか |
|---|---|---|
| 進入・機材配置 | 発生装置(4t車搭載)を寄せ、ホースを延ばす | 場所を確保できれば一部は可能 |
| 養生・水の受け設え | 飛散養生、堰、ポンプ、貯留の準備 | 足場側に組み込めば毎晩の手間が減る |
| はつり | 実際にノズルを当てている時間 | できない |
| 確認 | 打音とテストハンマーで脆弱部の残りを見る | できない |
| 撤収 | ホース撤去、機材格納、路面の残水処理、規制材の撤去 | できない |
一晩に進む量を決めているのは、この表の3行目だけです。 面積を能力値で割っても日数は出ません。上下の行に取られるほど、削る時間は短くなります。(関連:工期はどう決まるか)
見落とされやすいのが路面の残水です。水を使う以上、床版面と規制帯は濡れます。濡れたまま交通へ開放できるかは路面の状態と季節で変わり、この処理も解除時刻の内側に入ります。隣の車線を車が走っているため、水と削りカスが規制帯の外へ飛ばない設えも要ります。
橋の上で使った水は、下へ落ちます
ウォータージェットで最も重いのは、削る作業ではなく水の段取りです。出てくるのは削りカスの混ざった濁水で、そのまま流せるとは限らず、回収・処理や産業廃棄物としての処分が要る場合があります。橋梁でとくに効くのは桁下に何があるかで、河川なら河川管理者との協議、下が道路や鉄道ならその安全対策と規制、民地なら所有者への説明が要ります。(関連:排水・濁水の処理)
そこで実務では、水を受ける設えを足場計画と同時に決めます。 吊り足場に防水シートを張り、水が集まる形をつくり、堰で止めてポンプで送り、どこかに貯める——この一連は、足場が組み上がってからでは足しにくくなります。給水側も、橋の上まで水をどう運ぶかで段取りが変わります。仮設計画の段階で織り込めるかが分かれ目です。(関連:現場条件の確認リスト)
1995年の震災復旧から、橋の現場に立ってきました
サンテックはこの工法の専業会社として、1995年の阪神・淡路大震災の復旧工事にも加わっています。 傷んだコンクリートの劣化部を取り除き、耐震補強の下地をつくる工程です。工法の原理は当時から変わっていません。変わったのは、どこで止めるかという判断の蓄積のほうです。(関連:耐震補強の下地処理)
今日、確認できること
- 桁下に何があるかを確認する。 橋梁点検調書か現地写真、なければ地図と航空写真でも当たりは付きます。河川・道路・鉄道・民地のどれかが分かれば、水の受け方と協議先の見当がつきます。
- 規制の解除時刻から、撤収に要る時間を差し引いてみる。 ホースの撤去、機材の格納、路面の残水処理、規制材の撤去まで含めた時刻です。ここで出るのが正味の作業時間です。
- はつり面を一晩そのまま開放するのか、その晩のうちに次工程へ渡すのかを決める。 削っただけの床版面を交通に開放できるかは現場ごとに違います。決まっていなければ「まだ決まっていない」と施工会社に伝えるところから始めれば十分です。
まとめ
床版はつりでウォータージェットが効くのは、残すものがあるときです。鉄筋と健全なコンクリートを残したまま劣化部を取り除けるため、断面修復や上面増厚の下地では耐久性に直結します。
一方で水の段取りは重く、受ける設えを足場計画と一緒に組みます。工期も規制の解除時刻から逆算した正味の作業時間で決まります。 丸ごと撤去してよい範囲なら、打撃のはつりのほうが合理的です。
判断の分かれ目は「何を残したいか」と「水をどこで受けられるか」の2つです。ここが決まれば、工法と段取りはほぼ決まります。
ご相談ください 「桁下が河川で、水をどう受ければよいのか」「規制時間内に収まるのか」という段階からで構いません。図面と現況写真をもとに、除去範囲と規制計画との整合を組み立てます。当社で対応が難しい場合や、別の工法のほうが良い場合はそのようにお伝えします。 株式会社サンテックは1993年の設立以来この工法だけを手がけ、日本ウォータージェット施工協会の会員として、年平均92物件・累計1,500件以上の現場を重ねてきました。