この記事の要点
- 耐震補強で新しく打つコンクリートや繊維シートは、既存躯体と一体になって初めて力を伝える。その境界をつくるのが下地処理。
- 下地処理の中心は「目荒らし」=健全な表面を粗くして付着の面積とかみ合いを稼ぐ作業。もろい部分を取り除く劣化部除去とは積算上も別に扱われる。
- 目荒らしは工種として単価が定まっており、金額では差がつきにくい。見るべきは、どの状態をもって「下地ができた」と判断し、誰がいつ確認するかである。
耐震補強の検討は、補強の形から始まります。鉄骨ブレースを入れるのか、増打ちするのか、柱を巻き立てるのか、繊維シートを貼るのか。
ただ、その補強が設計どおりに効くかどうかは、新しく足したものと既存躯体が、接している面でつながっているかにかかっています。この記事は、その面をつくる工程――コンクリートの表面処理――の側から整理します。
補強材は、境界でつながって初めて効きます
増打ちコンクリート、巻き立てモルタル、炭素繊維シート。いずれも既存の柱や壁と一体になって初めて力を伝えます。境界がつるつるのままでは力が伝わらず、補強材がすべります。既存側にノロ(打設時にセメント分が浮いた層)や剥離剤、汚れ、塗膜が残っていても同じで、上に何を足しても、間に弱い層があればそこから壊れます。
補強材の性能は仕様書に書いてありますが、境界の状態は現場でしか作れません。
「目荒らし」とは、何をすることか

下地処理の中心が目荒らしです。やることは単純で、表面をあえて粗くすることです。粗くすると接する面の面積が増え、凹凸に新設側が入り込んで機械的にかみ合います。
ウォータージェットでやっているのは、超高圧の水を当てて表面の弱い部分だけを飛ばすことです。水を200MPa以上(大気圧の約2,000倍以上)まで昇圧し、直径0.1〜3mmのノズルからマッハ1〜3の速さで噴射します。当たった水は表面を壊してひびを生み(水圧)、そのひびに入り込んで内側から押し広げます(水くさび作用)。
コンクリートの表面には、密度の低い層や隙間の多い部分があります。水はそこから先に効くため、弱いところが落ち、締まった部分と骨材が残ります。これが粗い面になります。(関連:ウォータージェットの仕組み)
粗さの程度は圧力・ノズル・距離・送り速度で変わります。どこまで粗くするかは補強工法や材料の仕様に合わせて決めるもので、施工側だけでは決められません。
積算上は「目荒らし」と「劣化部除去」が別扱いになります
同じ機械で同じように水を当てていても、目的が違えば別の作業として扱われます。
| 目荒らし(表面処理) | 劣化部除去 | |
|---|---|---|
| 対象 | 健全なコンクリート表面 | もろくなった層 |
| 目的 | 表面を粗にして付着を得る | 劣化した部分を取り除く |
| 深さ | 表層を粗くする範囲 | 健全な層に届くまで(現場で変わる) |
| 積算上の扱い | 工種として単価が定まっている | 市場単価の対象外(特別調査) |
たとえば愛知県の積算基準では、市場単価が適用できる範囲を「ウォータージェットシステムを用いた健全な既設コンクリート構造物の表面を粗にすることを目的とした処理作業」と定め、コンクリート劣化部の除去を目的とする場合は適用の範囲外として、特別調査によるものとしています。
耐震補強の下地処理は、多くが前者――健全な面の目荒らし――にあたります。単価が定まっている領域なので、各社の金額がそこで大きく開くものではありません。だからこそ、選ぶ側が見るべきなのは金額よりも作業の中身です。
ただし、削り始めてみたら中がもろかった、ということは起こります。そうなると劣化部除去の話に変わり、積算上の扱いも変わるため、想定と違ったときにどう扱うかを着工前に決めておくことをおすすめしています。(関連:ウォータージェットはつりとは)
打撃工具との違いは、削った面の「下」に出ます
目荒らしは打撃工具でも可能です。違いが出るのは、削れた面そのものではなく、その内側です。叩いて壊す工具は、見える面を粗くする一方で、その下に微細なひび(マイクロクラック)を残すことがあります。表面が所定の粗さでも、内側が傷んでいれば弱点になります。
ウォータージェットは水が弱い部分を洗い出していく壊し方なので、この微細ひびを残しにくくなります。新旧を一体化させたい耐震補強の下地では、ここが効きます。露出した鉄筋やあと施工アンカーまわりも、金属は内部に隙間がなく水が入り込めないため母材は削れず、付着したサビや脆弱物だけが落ちます。
噴射は非接触なので、柱の隅や梁との取り合いなど、工具の当たりにくい形状にも届きます。(関連:ハンドガン施工という選択)
「下地ができた」を、どう確認するか
正直に申し上げると、粗さを数字ひとつで表して合否を出す運用は、現場では簡単ではありません。面の状態は場所ごとに違い、効き方も既存コンクリートの状態に左右されます。実際にやっているのは次のことです。
- 目視で、ノロ・塗膜・汚れが残っていないか、締まった面が出ているかを見る
- 打音やテストハンマーで、もろい部分が残っていないかを確かめる
- 見本となる面を先につくり、その状態を基準として全体を合わせる
- 補強材を施工する側に立ち会ってもらい、受け取る側の目でも見てもらう
実務でいちばん効くのは4つ目です。下地を作る側と補強材を施工する側が別会社になることは珍しくありません。引き渡す状態を、着工前と実際の面を前にした段階の両方で合意しておくと、あとの手戻りが減ります。下地は次工程が始まれば見えなくなりますので、写真の残し方も着工前に決めておく項目です。
今日、確認できること
- 補強工法・材料の仕様書で、下地に要求される状態を確認する。 目荒らしの程度、清浄度、含水状態の指定があるはずです。ここが決まらないと下地処理の範囲も決められません
- 目荒らしだけなのか、劣化部除去も入るのかを切り分ける。 劣化調査があれば結果を見て、無ければ「削ってみて変わる可能性がある」前提で、変更時の扱いを先に決めておきます(関連:除去深さと中性化層の考え方)
- 使った水をどこへ流すか、誰が手配するかを決める。 出てくるのは削りカスの混ざった濁水で、そのまま流せるとは限りません。分からない前提で段取りを組むほうが、着工後に判明するより影響が小さく済みます(関連:排水・濁水の処理)
まとめ
耐震補強の性能は、補強材の仕様だけでは決まりません。新しく足したものと既存躯体が境界でつながっているかで決まり、その境界をつくるのが下地処理です。
目荒らしは、積算上は工種として単価が定まっている領域です。金額では差がつきにくいぶん、確認すべきは中身になります。どの状態をもって下地ができたと判断するのか、誰がいつ見るのか、想定と違ったときにどう扱うのか。この3つが決まっていれば、着工後のやり取りは静かになります。
ご相談ください 「この補強工法なら、下地をどこまで作ればよいか」という段階からで構いません。仕様書と現場の状況をうかがったうえで、当社で対応が難しい場合は、そのようにお伝えします。 株式会社サンテックは1993年の設立以来この工法だけを手がけ、1995年の阪神・淡路大震災の復旧工事にも施工者として加わりました。年平均92物件・累計1,500件以上の現場を重ねています。