この記事の要点
- 金属を切るのは、研磨材を混ぜたアブレシブジェットです。 研磨材を含ませた高圧の水で、鉄筋や鋼板と一緒にコンクリートを切断できることが、日本原子力研究開発機構の解説に示されています。
- 現場では、原子力施設の解体で使われてきました。火花が出ないため、火気を使えない場所でも金属を切る手段の候補になります。 火花が出ないこと、切るものに接触せずに金属とコンクリートを同時に切れることが、その場面で効きます。
- 大量の水と、研磨材を含む廃液が出ます。 水と廃液の集め方・処分先を着工前に決めるのが前提です。ふげんの解体では、切断速度・二次廃棄物・コストを比べた結果、別の切断工法が選ばれました。
アブレシブジェットとは、超高圧の水に研磨材を混ぜて噴射し、金属やコンクリートを切断する方法です。 資料によって、アブレシブウォータージェット(Abrasive Water Jet)、研磨剤入り水ジェット切断、水ジェット切断とも呼ばれます。ウォータージェットの切断には、工場に据え置いて板材を切る加工機と、現場で構造物を切る使い方の2つがあります。この記事は現場の側を扱い、国の研究機関・学会・法令の原典を開いて確かめた範囲で整理しました。
切断は2種類:工場の加工機と、現場へ持ち込む装置
| 工場に据え置く加工機 | 現場で構造物を切る使い方 | |
|---|---|---|
| 切るもの | 工場へ運び込んだ金属・樹脂・石材の板材や部材 | その場にある鋼材・鉄筋コンクリート・設備 |
| 動かすもの | 材料を加工機に載せる | 装置を車両で持ち込み、ホースで先端へ水を送る |
| 呼び名の例 | ウォータージェットカッター、アブレシブジェットカッター | アブレシブウォータージェット、水ジェット切断 |
加工機の切断速度や板厚の数値は、据え置きの機械と材料の条件で出たものです。現場の構造物には、装置・研磨材・切る対象の条件がそれぞれ別にあります。この記事で扱う数値は、現場の側の原典にあるものに限りました。
研磨材を混ぜる方法そのものは、工場の外にも広がっています。日本機械学会 流体工学部門の解説に、次の一文があります。
高速の水噴流に研磨材を添加することで大幅に加工能力を向上させたアブレシブジェットは,1980年代初頭に提案・実用化がなされて以来,機械工業ばかりではなく鉱業,土木・建設,さらには消防など非常に多方面にわたって利用されるようになってきている.
(日本機械学会 流体工学部門「ウォータージェット技術で用いられる噴流 -アブレシブジェットの展開-」)
土木・建築で使う超高圧ウォータージェットの全体像は、ウォータージェット工法とはの記事で扱いました。
仕組み:研磨材を水の流れに吸い込ませて切る
同じ学会の解説によると、アブレシブジェットは研磨材の混ぜ方で2つに分かれ、違いは次のとおりです。
- インジェクション方式(AWIJ):ノズルの中で高速の水を噴射すると、混合室の圧力が下がり、空気と研磨材が吸い込まれる。研磨材・水・空気の三相の噴流になる
- サスペンション方式(AWSJ):研磨材と水を先に混ぜたスラリーを加圧して噴射する。固体と液体の二相の噴流になる
研磨材には、ガーネットなどが使われます。解説によれば、現在使われているシステムの大半はインジェクション方式です。
研磨材を混ぜない超高圧水では、鋼材は内部に水が入り込めないため残り、表面の塗膜やさびが落ちます。研磨材を混ぜれば、同じ超高圧水で金属の切断が可能です。はがす道具と切る道具を分けるのは、研磨材の有無と、圧力・水量の設定。 装置の構成と先端の道具の種類は、ウォータージェットの装置構成にまとめています。
切れるもの:鋼材と、鉄筋・鋼板の入ったコンクリート
日本原子力研究開発機構が、動力試験炉(JPDR)の解体で使った水ジェット切断装置の説明です。
水ジェット切断は、2,000kgf/cm2を超えるような超高圧の水圧ジェットの中に研磨材を添加することによって、コンクリートと一緒に鉄筋あるいは鋼板ライニングの切断が可能となる。
(日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所「原子炉解体技術(JPDR)」の「水ジェット切断装置」)
同じ機構の「コンクリート構造物の切断」のページには、「切断するものに接触することなく金属とコンクリートを同時に切断する」とあります。JPDRでは、生体遮へい体の突出部を切るのに使われました。ATOMICAによると、この生体遮へい体の厚さは炉心部で3m。内部には鉄筋や冷却配管が埋設され、内側の表面は鋼板で覆われています。
金属だけを切った例もあります。原子力百科事典ATOMICAの「鋼構造物の解体技術」に載る例と、JPDRを並べました。
| 施設 | 切った対象 | 方式 |
|---|---|---|
| 動力試験炉 JPDR(日本) | 生体遮へい体の突出部 | 研磨材を添加した水ジェット |
| 動力試験研究炉 VAK(ドイツ) | 炉内シュラウド | サスペンション方式(AWSJ) |
| ランチョ・セコ(米国) | 原子炉圧力容器 | 研磨剤入り超高圧水ジェット |
ATOMICAは、この技術の特徴を「切断ヘッドが小さく遠隔操作性も良く、切断性能に優れている」とまとめています。人が近づけない場所で、装置を遠隔で動かして切る場面で使われてきた方法です。
切れる厚さと切断面:研磨材の混ぜ方と装置の条件で変わります
切れる深さは、研磨材の混ぜ方で変わります。日本機械学会の解説は、同じ圧力・ノズル径・研磨材濃度で比べると、サスペンション方式のほうが深く切れるという報告を紹介しています。圧力、研磨材の量、ノズル、切る対象の材質も、厚さと速さを左右する条件です。
切断面の仕上がりにも、研磨材の量が関わります。同じ解説は、インジェクション方式で研磨材の流量が大きいと噴流が脈動し、次のことが起きると書いています。
脈動現象が発生すると噴流は半径方向に大きく広がるので切断面表面に損傷を与え,加工能力も低下する.
現場で切る厚さを見積もるときは、切るものの材質と厚さ、鉄筋や鋼板の有無を施工者に示し、その装置と研磨材の条件で確かめます。
火気を使えない場所:金属を切る手段の候補になります
爆発や火災のおそれのある場所で火花を発する機械を使うことは、労働安全衛生規則で禁じられています。
事業者は、危険物以外の可燃性の粉じん、火薬類、多量の易燃性の物又は危険物が存在して爆発又は火災が生ずるおそれのある場所においては、火花若しくはアークを発し、若しくは高温となつて点火源となるおそれのある機械等又は火気を使用してはならない。
(労働安全衛生規則 第二百七十九条第一項)
消防庁の手引き(令和6年8月)は、石油コンビナートの事故を分析し、「火災では、溶接及び溶断作業の火花の発生に起因する事例が多い」とまとめました。発生しやすい時期は「設備の改修や解体工事など非定常運転中」。配管・貯槽・ポンプなど、あらゆる機器で起きています。
ガス溶断やグラインダーは、火花や高温を伴う道具です。研磨材を混ぜた水で切る方法は火花が出ないため、石油化学プラントの解体のように火気を持ち込めない現場で、金属を切る手段の候補に残ります。
同じ手引きは、可燃性ガスが存在しない場合でも滞留しているかもしれないとの視点に立ち、作業前にガス検知器で環境を測ることを求めています。作業の可否は、設備ごとの火気使用のルールと、事前の測定で決まります。(関連:ウォータージェットのメリット6つ)
水と廃液:大量の水を使い、研磨材を含む廃液が出ます
同じ機構の説明は、長所と短所を次のように並べています。
切断能力が高く、水圧ジェットノズルの小型化が可能であり、粉塵発生がないなどの長所を有するが、大量の水を使用すること、研磨材の使用によって廃棄物量が発生することなどの短所がある。
ATOMICAにも「2次廃棄物として発生する研磨剤を含む廃液処理の考慮が必要である」との記述があります。水を引けるか、研磨材を含む廃液をどう集め、どこで処分するか。 給水と廃液の段取りが決まらないうちは、工程も費用も組めません。(関連:ウォータージェットの排水処理)
比較の結果、別の工法が選ばれた例もあります。日本原子力研究開発機構の「ふげん」の原子炉本体の解体では、プラズマアーク、アブレイシブウォータージェット、ダイヤモンドワイヤーソー、レーザを、切断速度・二次廃棄物発生量・コストで比べました。 選ばれたのは、炉心領域と遮へい領域がレーザ切断工法、金属ライナー付きのコンクリートがダイヤモンドワイヤーソー切断工法でした。
ほかの切り方との比べ方:対象と、周囲に出せるもので決まります
| 工法 | 切り方 | 原典にある特徴 |
|---|---|---|
| ワイヤーソー | ダイヤモンドビーズを付けたワイヤーを巻き付け、高速回転させてコンクリートや鉄筋を切る | ワイヤーをかけられれば大きさを問わず切断可能。建物・橋脚・水中構造物などに実施例 |
| ダイヤモンドブレード・コアドリル | ブレードやビットでコンクリートや鉄筋を研削する | 騒音や振動の低減が求められる場合の縁切り・部材解体・穴あけに使われる |
| 熱で溶かす切断(プラズマアーク・ガス溶断など) | アークや炎の熱で溶融して切る | 火花・高温を伴う。JPDRの生体遮へい体では、粉塵と切断片の処理の問題から適用が見送られた |
| アブレシブジェット | 研磨材を含ませた高圧の水を吹き付けて切る | 接触せずに金属とコンクリートを同時に切断。大量の水を使い、研磨材による廃棄物が出る |
JPDRの生体遮へい体では、放射化レベルの高い部分に機械的切断と水ジェット切断、低い部分と放射化していない部分に制御爆破が選ばれました。1つの構造物の中でも、部位ごとに切り方が違います。
土木学会の「解体・障害物撤去工」(平成29年1月)は、アブレーシブウォータージェットの用途を「切断・斫り・削孔・表面処理・研掃・洗浄処理」と整理しています。ワイヤーソーとは分類も別。
発注前に確かめること:対象・火気・水・積算の4つ
- 切るものの材質と厚さ。 鉄筋や鋼板の有無も含めて伝えます。切れる厚さは、装置と研磨材の条件で決まります
- 火気を使える場所か。 労働安全衛生規則第279条の場所か、設備の火気使用のルールで溶断が使えるかを確認します
- 水と廃液の出し先。 給水の場所と、研磨材を含む廃液の集め方・処分先を決めます
- 積算の扱い。 日本下水道事業団の積算基準では、ウォータージェット工の市場単価が使えるのは、健全な既設コンクリート構造物の表面を粗にする処理作業です。「鉄筋の切断を目的とする場合」「構造物の打ち抜き(開口)を目的とする場合」は、表1.1で特別調査によるものに挙げられています。金額は、別に調べた単価や見積で決まります
まとめ
ウォータージェットで金属や鉄筋コンクリートを切るのは、研磨材を混ぜたアブレシブジェットです。 現場では、遠隔で切る原子力施設の解体で使われてきました。火花を出せない場所でも、金属を切る手段の候補です。
切れる厚さと切断面は、研磨材の混ぜ方と装置の条件で変わります。大量の水と研磨材を含む廃液が出るため、水の段取りと廃液の処分先が着工前に決まる現場なら、選択肢に入る工法です。ふげんの解体のように、切断速度と二次廃棄物の量を比べた結果、レーザやワイヤーソーが選ばれた例もあります。
ご相談ください 切るものと現場の条件(材質・厚さ・火気の扱い・水の出し先)を教えていただければ、水を使う工法が合う現場かどうかを率直にお答えします。 別の工法のほうが合う現場なら、その工法をお伝えします。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。
本記事で参照した資料
- 日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所「原子炉解体技術(JPDR)」の「水ジェット切断装置」(長所と短所の記述/生体遮へい体突出部の切断)
- 日本原子力研究開発機構 原子力科学研究所「コンクリート構造物の切断」/「鋼構造物の切断」(JPDRで使われた切断装置の説明)
- 原子力百科事典ATOMICA「鋼構造物の解体技術 (05-02-02-01)」更新年月 2013年10月(2.2 研磨剤入り水ジェット切断)
- 原子力百科事典ATOMICA「コンクリート構造物の解体技術 (05-02-02-02)」更新年月 2010年11月(JPDRの生体遮へい体の解体)
- 日本原子力研究開発機構 原子炉廃止措置研究開発センター「原子炉本体解体工事」(原子炉本体解体方法の選定について)
- 日本機械学会 流体工学部門「ウォータージェット技術で用いられる噴流 -アブレシブジェットの展開-」ニュースレター「流れ」2006年4月号(更新日 2006.3.27)
- 土木学会建設技術研究委員会 建設技術体系化小委員会「解体・障害物撤去工」平成29年1月(2.4 水等の噴射圧によるもの/2.5 切断・切削など)
- 労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)第二百七十九条(e-Gov法令検索)
- 消防庁特殊災害室「石油コンビナートにおける事故分析を踏まえた事故防止の手引き」令和6年8月(p.33〜34 人的な維持管理面における事故防止のポイント/事例№① 火気使用時における配慮)
- 日本下水道事業団「土木工事 積算基準・標準歩掛」令和5年度(Ⅱ-11-⑭ コンクリート表面処理工(ウォータージェット工)表1.1)
いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。切れる厚さと速さは、装置と研磨材の条件で変わります。 工事の計画には、施工者に対象と条件を示して確かめてください。