TOP / 技術コラム / 工法解説
工法解説

トンネル補修工法の全体像 ― 補修・補強のマニュアルで、はつり落とし工と下地処理はどこに位置づくか

2026-09-26 / SANTEC COLUMN

この記事の要点

  1. トンネル補修の工法は、目的で3つに分かれます。 土木研究所の「道路トンネル変状対策工マニュアル(案)」は、はく落防止対策・漏水対策・覆工背面空洞充填対策の3つに分けて整理しています。
  2. はつり落とし工は、はく落防止対策の最も基本的な工法です。 応急対策として単独で行う場合、はつり落とし深さはNATMトンネルで5cm程度以下、矢板工法トンネルで10cm程度以下が目安とされています。
  3. ウォータージェットは、はつり落とし工の機材の1つに挙げられています。 道路トンネルで使う場合は、照明設備の防水、切削水の回収と汚濁水の処理、供用車線への水の飛散防止に配慮します。

トンネルの補修とは、覆工コンクリートに生じたひび割れ・うき・はく離・漏水などの変状に対して、利用者被害を防ぎ、機能を保つための措置を講じることです。 道路トンネルでは、定期点検の結果を受けて補修の要否と時期が決まります。この記事では、国と土木研究所の公開資料を開いて確認した内容をもとに、補修工法の全体像と、そのなかで「はつり」と「下地処理」がどこに位置づけられているかを整理しました。

点検:5年に1回、健全性をⅠ〜Ⅳに区分する

道路トンネルの定期点検は、国土交通省道路局の「道路トンネル定期点検要領」(令和6年3月)で5年に1回の頻度を基本とすると定められています。点検の結果、トンネルごとに次の4つの区分のいずれかが決まります。

区分 定義(要領の表-5.1)
Ⅰ 健全 道路トンネルの機能に支障が生じていない状態。
Ⅱ 予防保全段階 道路トンネルの機能に支障が生じていないが、予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態。
Ⅲ 早期措置段階 道路トンネルの機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態。
Ⅳ 緊急措置段階 道路トンネルの機能に支障が生じている、又は生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態。

同じ要領の解説には、点検の場で応急的に手を打つ場面についての記述もあります。

例えば、道路利用者の安全確保の観点からは、うき・はく離やボルトの緩み等に対して定期点検の際に応急的に措置を実施することが望ましいこともある。

(国土交通省 道路局「道路トンネル定期点検要領(技術的助言の解説・運用標準)」令和6年3月)

国土交通省の「トンネル覆工のはく落発生抑制技術ガイドライン(案)」(令和5年3月)も、はく落につながるうき・はく離には「定期点検時に打音検査やたたき落としによる対応が必要となる」と記しています。

補修工法は、はく落防止・漏水・背面空洞の3つに分かれる

補修工法の選び方をまとめた公開資料の1つが、土木研究所資料第3877号「道路トンネル変状対策工マニュアル(案)」(平成15年2月)です。序文によれば、日本道路協会の「道路トンネル維持管理便覧」を補完する目的で作られました。対象は、採用される頻度が高い3つの対策です。

対策 何に対して行うか 主な工法(マニュアルの目次から)
はく落防止対策 覆工のうき・はく離・ブロック化による落下 はつり落とし工、断面修復工、ひび割れ注入工、金網・ネット工、当て板工、補強セントル工
漏水対策 覆工からの漏水 防水パネル工、防水シート工 など
覆工背面空洞充填対策 覆工の裏側の空洞 裏込め注入工

3つのうち、はつりが関わるのは主にはく落防止対策で、以下はそこに絞って整理します。

はく落防止対策は「応急対策工」と「本対策工」に分けて選ぶ

マニュアルは、はく落防止対策の工法を、すぐに効果が出る応急対策工と、恒久的に直す本対策工に分けています(表-2.2.1)。

区分 工法 対策工の位置づけ(原文)
応急対策工 はつり落とし工 小規模な変状箇所の除去
金網・ネット工 うき、はく落箇所の保持
当て板工(形鋼系) 変状規模が大きい場合の、変状箇所、あるいは金網・ネット工の支持
補強セントル工 変状規模4㎡程度以上のアーチ部の覆工ブロック化箇所に適用
本対策工 はつり落とし工 小規模な変状箇所の除去および他工法適用に際しての、変状箇所の事前除去
断面修復工 覆工欠損箇所の修復(当て板工(パネル系、繊維シート系)を併用)
ひび割れ注入工 当て板工(パネル系、繊維シート系)の下地処理または、RC覆工に適用
当て板工 形鋼系=変状箇所の支持/パネル系・繊維シート系=うき、はく落箇所の保持および覆工との一体化

応急対策には、原則として金網・ネット工を適用します。後の標準調査・詳細調査で変状の状況を確認しやすくするためです。はつり落とし工は、応急対策では小規模な変状箇所の除去に、本対策では他の工法の前処理にも使われます。

はつり落とし工は、はく落防止対策の最も基本的な工法

マニュアルの2.3.2は、はつり落とし工を次のように説明しています。

はく落防止対策工の最も基本的な対策工法であり、応急対策工、本対策工の前処理としても行われる。

ハンマー、電動ピック、ディスクサンダー、ウォータージェット等を用いて、覆工コンクリート表面の劣化部および、劣化した既設補修・補強材を除去する工法である。

(土木研究所「道路トンネル変状対策工マニュアル(案)」2.3.2 はつり落とし工)

除去範囲は、目視観察に打音検査を併せて決めます。ただし、目視と打音だけでは覆工の内部の劣化範囲まで把握しきれないことがあります。マニュアルは「はつり作業の中で最終的な範囲を決定するといった柔軟な対応が必要」としています。削り始めてから範囲が広がる可能性を、発注の段階で見込んでおく必要があります。

はつった後の確認は、目視と点検ハンマーの打音検査です。周辺部を含めて、浮きやはく離が残っていないことを確かめます。はつり落とし工だけで本対策を終える場合は、はつった面に劣化防止コーティング剤(セメント系または樹脂系)を塗布しておくことが望ましいとされています。

はつり落とし深さ:単独の応急対策ならNATM5cm程度以下・矢板10cm程度以下

マニュアルが深さに上限を設けるのは、はつり落とし工を応急対策として単独で行う場合です。制限値は、有効巻厚が設計巻厚の3/4以上残るように安全側に決められています。

トンネルの種類 一般的な覆工厚 はつり落とし深さの制限値
NATMトンネル 30cm 5cm程度以下(30×1/4=7.5cmから)
矢板工法トンネル 40〜70cm程度 10cm程度以下(10〜17.5cmから)

本対策での扱いは、次のとおりです。

本対策工でははつり落とし工と断面修復工が必ず併用されることとしたため、はつり落とし深さについては特に制限しないこととした。

削った分は断面修復で戻すため、深さは劣化部がどこまであるかで決まります。深さの決め方の一般論は、断面修復のはつり深さの記事で整理しました。

はつりの機材:ハンマー・電動ピック・ディスクサンダー・ウォータージェット

マニュアルは、除去対象の面積や使う機材、適用性を考えて機材を選ぶとしています。表-2.3.2の比較は次のとおりです。

機材 適用施工面積 粉塵対策 適用性(原文の要旨)
ハンマー 局所 不要 覆工表層部のうき、はく離箇所の除去のみ
電動ピック 局所〜0.5㎡程度 必要 ある程度の深さまで対応できる。一様な仕上げ面は期待できない
ディスクサンダー 局所〜0.5㎡程度 必要 表層部の除去と、他の機材で除去した面の平滑化。作業員の熟練度で仕上がりと施工速度が変わる

ウォータージェットは表に無く、同じ節の「新工法・新技術」の項に説明があります。

ウォータージェット工法は、高圧水(機種によっては研磨剤を混ぜるタイプがある)でコンクリートを切削除去する工法であり、はつり落としの対象面積が大規模な場合、非常に施工効率が良い。また粉塵が発生しないという利点を有する。

施工方式ではガンタイプ(手動式)と、遠隔操作でノズルを移動するタイプ(機械式)があり、さらに後者の中には排水を自動回収できるタイプが開発されている。

施工上の留意点には、骨材とセメント部の強度が大きく異なるコンクリートではディスクサンダーではつり面を平滑にでき、「ノズルが機械で回転するタイプのウォータージェットも同様」と書かれています。

面積が小さく局所的なうきを落とすだけなら、ハンマーで足ります。ウォータージェットが効くのは、はつる面積が広い場合と、粉塵を出したくない場合です。平成15年の発行時点で「今後、適用実績が増えるものと考えられる」と書かれた工法で、その後の機材の分類は、ウォータージェットはつりの機械の記事にまとめました。

ウォータージェットを使うときに配慮すること:照明の防水・切削水・車線への飛散

マニュアルは、道路トンネルでウォータージェットを使う場合の条件を明記しています。

当工法を道路トンネルで適用する場合は、坑内照明設備等の防水、切削水の回収方法と汚濁水の処理、施工中の供用車線への水の飛散防止等に十分配慮する。また、施工後の状態を必ず目視および打音検査で確認する必要がある。

天井や側壁の照明・ケーブルは、工法を問わず事前に仮移設します。マニュアルは、取り外しと再取付けで破損や脱落が無いよう十分注意する必要があるとしています。ウォータージェットでは、それに加えて水が届く範囲の設備を防水します。

もう1つの条件は水です。削ったコンクリートを含む水をどう集め、どこで処理するかが決まらないと、工程が組めません。片側交互通行で施工する場合は、隣の車線へ水が飛ばない設えも要ります。マニュアルの共通事項も、片側交互通行条件では利用者の安全通行確保を最優先に、材料の飛散防止と粉塵対策に十分配慮するよう求めています。(関連:ウォータージェットの排水処理/ウォータージェットの騒音・振動・粉じん)

水の回収と処理、車線側の養生が組めない現場には、ハンマーや電動ピックが向きます。

断面修復は当て板工と併用するのが原則。下地処理は念入りに行う

はつった後の断面を戻すのが断面修復工です。マニュアルは、断面修復工を単独で終えない理由を注記しています。

既往の断面修復工が施工された箇所で、長期的に修復材が材質劣化して新たなはく落を招く事例が報告されていることから、本マニュアルでは、断面修復工は必ず当て板工(パネル系、繊維シート系)を併用することを原則としている。

施工の手順は、下地処理→防錆処理→(補強筋設置)→プライマー塗布→修復材充填→当て板工施工の順です。最初の下地処理について、マニュアルは「ワイヤーブラシ、ディスクサンダー等を用いて、表面の汚れ付着物の除去を行う」とし、施工上の留意点には次の一文を置きます。

下地処理は、修復材の付着性を向上させるためのものであるため念入りに行う。

修復深さによっても施工方法が変わり、表-2.3.5では、修復深さ50mm未満はモルタル工法(手練り、左官工法)、50mm以上は型枠工法(場所打ち工法)が「適する」とされています。

金網・ネット工の下地処理は「極端な段差、遊離石灰等をディスクサンダー等で除去する」です。どの工法も、既設の面を整える工程から始まります。下地処理をウォータージェットで行う場合にも、前の節の水の条件が同じく必要です。付着のための表面の粗し方は、超高圧洗浄による目荒らしの記事で扱っています。

まとめ

トンネル補修の工法は、はく落防止対策・漏水対策・覆工背面空洞充填対策の3つに分かれ、はつりは主にはく落防止対策に入ります。 はつり落とし工は応急対策にも本対策にも使われる基本の工法で、応急対策として単独で行う場合は深さに上限があります。本対策では断面修復と当て板工を組み合わせ、その前の下地処理が付着を左右します。

ウォータージェットは、はつり落とし工の機材の1つとして公開資料に挙げられています。はつる面積が広い場合と粉塵を出したくない場合に効き、照明設備の防水、切削水の回収と処理、車線への飛散防止が組めることが使う条件です。

ご相談ください 点検結果(変状の位置と規模)と、規制の条件を見せていただければ、ウォータージェットで段取りが組めるかどうかを率直にお答えします。 ハンマーや電動ピックのほうが合う範囲なら、そうお伝えします。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。


本記事で参照した資料

いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。土木研究所のマニュアルは平成15年の発行です。 工事の計画には、発注者の特記仕様書と、発注時点の最新の要領・基準で必ずご確認ください。

よくある質問

トンネルの補修工法にはどんな種類がありますか?
目的で3つに分かれます。土木研究所の「道路トンネル変状対策工マニュアル(案)」は、はく落防止対策・漏水対策・覆工背面空洞充填対策に分けて工法を整理しています。はつりが関わるのは、主にはく落防止対策です。
道路トンネルの定期点検は何年ごとですか?
5年に1回が基本です。国土交通省の「道路トンネル定期点検要領」(令和6年3月)で定められています。点検の結果、トンネルごとに健全性がⅠ(健全)からⅣ(緊急措置段階)までの4区分のいずれかに決まります。
はつり落とし工だけで、何cmまで削ってよいですか?
応急対策として単独で行う場合、NATMトンネルで5cm程度以下、矢板工法トンネルで10cm程度以下が目安です。本対策では断面修復工と必ず併用するため、マニュアルは深さに特に制限を設けていません。
トンネルの覆工はウォータージェットではつれますか?
できます。マニュアルは、はつり落とし工の機材の1つにウォータージェットを挙げています。道路トンネルで使う場合は、照明設備等の防水、切削水の回収と汚濁水の処理、供用車線への水の飛散防止に配慮します。
断面修復だけで補修を終えてもよいですか?
マニュアルは、断面修復工に当て板工(パネル系、繊維シート系)を併用することを原則としています。既往の断面修復箇所で、修復材が長期的に材質劣化して新たなはく落を招く事例が報告されているためです。

ウォータージェット工法のご相談はこちら

コンクリート劣化部除去・塗膜剥離・狭所施工まで。現場ごとの最適解を専門スタッフがご提案します。

お問い合わせはこちら →
← 技術コラム一覧へ戻る