この記事の要点
- 国の改修仕様書では、既存の塗床は「除去」か「目荒し」のどちらかで扱います。 どちらの工法にするかは、特記(その工事の特記仕様書)で決まります。
- 除去する範囲は、下地で変わります。 モルタル下地ならモルタルごと、コンクリート下地ならコンクリート表面から3mm程度です。
- 工法の分かれ目は、粉じん・水・乾燥の扱いです。 研削やブラストは集じんが要り、ウォータージェットは濁水の処理と下地を乾かす日数を工程に入れます。
エポキシ樹脂塗床とは、コンクリートやモルタルの床にエポキシ樹脂系の塗床材を塗り重ねて仕上げた床のことです。 工場や倉庫で多く使われ、傷みが進んで塗り替えるとき、最初に決めるのは、既存の塗床を剥がすか、残して上から塗るかの選択になります。国土交通省の「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」は、この判断と除去の範囲、塗り替え前の下地の条件を定めています。この記事では、仕様書の原文を開いて確かめた内容を、工事の段取りの順に整理しました。
選択肢は2つ:除去工法か、目荒し工法か
改修仕様書の6章2節「既存床の撤去及び下地補修」は、合成樹脂塗床材の扱いを2つの工法に分けた構成です。
| 工法 | 仕様書の書き方 | 既存の塗床 |
|---|---|---|
| 機械的除去工法 | ケレン棒、電動ケレン棒、電動はつり器具、ブラスト機械等により除去する | 剥がして下地を出す |
| 目荒し工法 | 既存仕上材の表面をディスクサンダー等により目荒しを行い、接着性を高める | 残して上から塗る |
どちらを使うかについて、仕様書は「工法は特記による」と書いています。まず特記仕様書を開き、除去か目荒しかを確かめてください。 既存の塗床が下地から浮いている、割れているといった状態なら、残して塗っても新しい塗床ごと剥がれるおそれがあります。この場合は除去の検討に入ります。
除去の範囲:コンクリート下地なら表面から3mm程度
除去工法を選んだときに削る深さは、仕様書に数字で書かれています。
ケレン棒、電動ケレン棒、電動はつり器具、ブラスト機械等により除去する。また、必要に応じて、集じん装置付き機器を使用する。除去範囲は、下地がモルタル塗りの場合はモルタル下地共、コンクリート下地の場合はコンクリート表面から3mm 程度とする。
(国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」6.2.2(1)(イ)(a))
コンクリート下地では、塗床を剥がしたあと、表面を3mm程度まで取ります。モルタル下地なら、塗床とモルタルをまとめて撤去する形です。こちらは床のはつりを伴う工事で、撤去したあとにモルタルを塗り直す工程が加わります。(関連:ウォータージェットはつりとは)
下地がどちらかは、竣工図や過去の改修記録で分かることがあります。
既存の塗床の種類で、剥がす量が変わります
同じエポキシ樹脂系でも、工法によって塗り重ねる量が大きく違います。改修仕様書の工程表から、平滑仕上げの使用量を合計しました。
| エポキシ樹脂系塗床の工法 | 工程(平滑仕上げ) | 使用量の合計 |
|---|---|---|
| 薄膜型塗床工法 | プライマー0.15・下塗り0.15・上塗り0.15 | 0.45 kg/㎡ |
| 薄膜流しのべ工法 | プライマー0.15・下塗り0.30・上塗り0.80 | 1.25 kg/㎡ |
| 厚膜流しのべ工法 | プライマー0.15・骨材混合ペースト2.50・上塗り0.80 | 3.45 kg/㎡ |
| 樹脂モルタル工法 | プライマー0.15・タックコート0.30・樹脂モルタル7.00・目止め0.30・上塗り0.80 | 8.55 kg/㎡ |
合計は、表6.10.5〜6.10.8の各工程の使用量を足した値です。薄膜型と樹脂モルタル工法では、塗られている量に約19倍の開きがあります。既存の塗床がどの工法で塗られたかで、除去にかかる手間は変わります。 見積もりの前に、既存の仕様が分かる資料を探しておくと話が早く進むはずです。
工法の使い分け:粉じん・水・乾燥のどれを引き受けるか
| 工法 | 仕様書での扱い | 出てくるもの | 下地の状態 |
|---|---|---|---|
| 研削(ディスクサンダー等) | 目荒し工法の道具として挙がる | 塗床の削り粉 | 乾いたまま |
| ブラスト機械(ショットブラスト等) | 機械的除去工法の道具として挙がる | 塗床の削り粉・塗床片 | 乾いたまま |
| 剥離剤 | 床の塗床の項には挙がらない | 塗床くず・剥離剤 | 製品の指定による |
| ウォータージェット | 床の塗床の項には挙がらない(「等」に含めて特記で指定する) | 塗床片を含む濁水 | 濡れる。乾かす日数が要る |
研削とブラストは乾式なので、下地は乾いたまま次の塗装へ渡せます。代わりに削り粉が発生するため、仕様書は「必要に応じて、集じん装置付き機器を使用する」と定めています。(関連:ウォータージェットとサンドブラストの比較)
ウォータージェットは水だけを使う湿式の工法で、研削材も薬剤も使いません。超高圧の水の水圧と、ひび割れに入り込んだ水が押し広げる水くさび作用で、塗膜や劣化部を剥がします。火花が発生しないため、可燃物を扱う工場でも選択肢の一つです。その代わり、濁水の回収と処理、下地を乾かす日数を引き受けることになります。
剥離剤:床の塗床の項には、例示がありません
改修仕様書で「塗膜はく離剤工法」が出てくるのは、4章「外壁改修工事」の既存塗膜の除去です。6章の床の塗床の除去には、ケレン棒からブラスト機械までの機械が並んでいます。
剥離剤を使う場合は、成分の確認が先になります。厚生労働省は、橋梁の塗料の剥離や石綿を含む仕上塗材の除去について、次のように注意を呼びかけました。
剥離剤に含まれる化学物質への引火による火災や、吸入による中毒事案が頻発している状況にあり、原因物質の中には、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号)、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号)などの法令(以下「特化則等」という。)による規制の対象となっている物質以外の物質も含まれています。
(厚生労働省 基安化発0817第1号「剥離剤を使用した塗膜の剥離作業における労働災害防止について」令和2年8月17日、最終改正 令和4年5月18日)
同じ通達は、ベンジルアルコールが令和3年1月1日からラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの対象になったことにも触れています。剥離剤を選ぶときは、製品のSDSで成分を確かめ、換気と火気の管理を計画に入れておくことが欠かせません。
ウォータージェットを選ぶときに、先に決めること
ウォータージェットは床の塗床の項に名前が無いため、使う場合は特記仕様書での指定か、監督職員との協議で決まります。改修仕様書は、外壁の既存塗膜を高圧水洗機で除去する場合について、加圧力を試験施工で決めて監督職員の承諾を受けること、施工に関する十分な経験と技能を有する技術者が施工することを定めています。床で使う場合も、同じ手順を当てると判断しやすくなります。
床で決めておくことは3つです。
- 水の行き先:床の排水溝・ピットに流せるか、回収して場外へ運ぶか
- 乾燥の日数:除去から塗床のプライマーまでに、下地を乾かす日数を工程に取れるか
- 養生:稼働中の設備や操作盤が近くにあれば、水がかかっても支障の無いように養生できるか
塗床片を含む水は、そのまま流せるとは限りません。何を削ったかで扱いが変わります。(関連:ウォータージェットの排水処理)
この3つが組める現場なら、ウォータージェットは選択肢に入る工法です。停止期間が短く乾燥の日数が取れない床や、給排水の段取りが組めない床には、乾式の研削やブラストが向いています。
塗り替え前の下地:レイタンスとぜい弱部を除き、表面強度を確かめる
既存の塗床を剥がしたあとの下地処理は、6.2.2(2)によります。凹凸や段差はサンダー掛けや充填で補修し、「コンクリート金ごて仕上げ程度に仕上げる」とされています。新しい仕上げが合成樹脂塗床の場合、補修材は主材料の製造所が指定する材料を使います。
新設のモルタル下地について、6.10.3は次のように定めています。
新設のモルタル塗り下地は 6.15.6(2)により、施工後 14 日以上放置し、乾燥したものとする。
なお、下地の突起、汚れ、付着物等は、除去し、レイタンスやぜい弱部がないことを確認する。また、下地の表面強度を確認し、必要に応じて、主材料の製造所の仕様により補修を行う。
(同 6.10.3(1)(イ))
塗床は、乾いていて、ぜい弱な層が残っていない下地に塗るのが前提です。施工管理の項では、気温5℃以下・湿度80%以上・換気が十分でない場合は施工しないとされています(採暖・換気等を適切に行う場合を除く)。既存下地に油面等が見られる場合は、プライマーを油面処理用に替えることも工程表の注記に書かれています。油を扱う工場の床では、この注記が効いてきます。
着工前に確認すること
- 特記仕様書で、除去か目荒しかを確かめる。 除去なら、指定された工法と除去範囲も読みます
- 下地がモルタルかコンクリートかを調べる。 モルタル下地なら、モルタルごと撤去して塗り直す工程が加わります
- 既存の塗床の工法を資料で探す。 薄膜か樹脂モルタルかで、剥がす量が変わります
- 石綿の事前調査を行う。 改修仕様書1.5.1は、改修工事の前に書面調査と現地での目視調査で石綿含有建材を確かめると定めています。改修部で石綿・鉛等を含む材料を見つけた場合は、監督職員と協議します(6.1.4)。(関連:石綿含有仕上塗材の除去とウォータージェット工法)
まとめ
既存のエポキシ樹脂塗床は、特記に従って除去か目荒しで扱います。 除去の範囲は、モルタル下地ならモルタルごと、コンクリート下地なら表面から3mm程度です。
工法は、研削・ブラストの乾式か、剥離剤か、ウォータージェットの湿式かで、引き受けるものが変わります。乾式は集じん、剥離剤は成分と換気、ウォータージェットは濁水の処理と乾燥の日数です。停止期間の長さと、水と粉じんをどこまで扱える現場かで選ぶと、工程が組みやすくなります。
ご相談ください 特記仕様書と床の状態を見せていただければ、ウォータージェットで段取りが組めるかどうかを率直にお答えします。 乾燥の日数が取れない床なら、研削やブラストをおすすめします。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。
本記事で参照した資料
- 国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」令和7年3月21日(最終改定 令和7年5月12日)(1.5.1 事前調査/4.5.4 既存塗膜等の除去、下地処理及び下地調整/6.1.4 有害物質を含む材料の処理/6.2.2 工法/6.10 合成樹脂塗床)
- 厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長「剥離剤を使用した塗膜の剥離作業における労働災害防止について」(基安化発0817第1号)令和2年8月17日(最終改正 令和4年5月18日)
いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。工事の計画には、発注時点の最新の仕様書と特記仕様書で必ずご確認ください。