この記事の要点
- 防食ライニングは、剥がして塗り直す前提の層です。 国土交通省の通知は、水処理施設や汚泥処理施設などの内部防食の標準的な耐用年数を10年としています。
- 剥がす前に、何が施工されているかを竣工図書で確かめます。 下水道の防食被覆は、年代によってタールエポキシ樹脂塗装・塗布型ライニング・シートライニング・耐硫酸モルタルと種類が違います。
- 剥がした後に見られるのは、素地の状態と、再施工した層のピンホール・接着強さ・厚さです。 日本下水道事業団の仕様書は、これらを品質管理の項目に挙げています。
ライニングの剥離とは、コンクリートや鋼材の表面に施工された防食ライニングを剥がし、再施工できる素地まで戻す工程のことです。 ライニングは塗装より厚い層で環境を遮断する防食方法で、水槽・タンク・下水道施設の内面に使われています。層が傷めば剥がして施工し直すことになり、そのときの下地の出来が次の層の持ちを左右します。この記事では、剥がす工程に絞って、公的な仕様書と要領で確認できた内容を段取りの順に整理しました。下地処理が寿命を決める理由そのものは、防食工事の下地処理が寿命を決めるで解説しています。
更新の目安:内部防食の標準的な耐用年数は10年
日本下水道事業団(JS)の技術基準課による解説に、防食被覆層の耐用年数についての次の一文があります。
国土交通省からの通知でも水処理施設や汚泥処理施設等における内部防食の標準的な耐用年数として 10 年を規定している。
(桑嶋知哉「『下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル』の改訂」コンクリート工学 Vol.50 No.11、2012年11月)
同じ解説は、防食被覆層に求める基本の性能を「耐硫酸性」「遮断性」「接着安定性」の3つとしています。割れや剥れが生じれば、層としての機能は果たせません。一度施工したライニングも、いずれ剥がして施工し直す時期を迎えます。
剥がす前に:施工年代で、ライニングの種類が違います
最初の作業は、竣工図書と補修記録で既設の被覆を特定することです。JSの技術基準は、改訂のたびに防食被覆工法を加えてきました(桑嶋 2012 の表-1ほか)。
| 年 | JSの技術基準で加わった内容 |
|---|---|
| 1987年 | コンクリート防食塗装指針(案)。硫化水素ガスの発生が多い施設を対象に、タールエポキシ樹脂塗装 |
| 1991年 | コンクリート防食指針(案)。腐食環境を分類し、防食被覆工法の標準設計仕様を定める |
| 1997年 | シートライニング工法を追加 |
| 2002年 | 「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」を作成。性能照査型へ移行 |
| 2012年 | 耐硫酸モルタル防食工法を追加 |
1980年代後半に建設された槽と2010年代に改修された槽では、剥がす相手が別の材料になる可能性があります。図面に被覆の記載が無いときは、剥がし始める前に小さな範囲で確かめます。
剥がす相手の性質:厚さと硬さが、種類ごとに違います
国土交通省の「機械工事塗装要領(案)・同解説」は、有機質ライニングを、塗装より厚く被覆する防食方法と説明しています。
塗装との違いは厚膜に被覆することで遮断効果を発揮させて防食するということであり,通常は0.5㎜以上の被膜厚に施工される。
(国土交通省「機械工事塗装要領(案)・同解説」令和3年2月)
| 種類 | 主な対象 | 剥がすときに関わる性質(公的資料の記述) |
|---|---|---|
| 樹脂ライニング(エポキシ樹脂など) | コンクリート・鋼材 | 熱硬化性樹脂は加熱で反応硬化し、高温域での軟化はほとんど無い |
| ゴムライニング | 鋼材のタンク・配管 | 天然ゴム・合成ゴム。ゴム弾性があり、力を加えると変形する。加硫して硬質にすることもある |
| シートライニング | 下水道のコンクリート | 工場で成型した有機系被覆材を、既設コンクリートと一体化させる |
| 耐硫酸モルタル | 下水道のコンクリート | 防食被覆層に一定の厚みが要る(2012年版マニュアルでは最大25mm) |
通常0.5mm以上の樹脂層と、最大25mmのモルタル層では、除去の量も、発生する廃棄物の量も大きく変わります。ゴムは力を加えると変形する材料です。硬い樹脂と同じ条件では、剥がれ方が違ってきます。圧力や水量の条件も、材料と厚さ次第です。
国土交通省北陸地方整備局の掲載資料にある柿川水門修繕工事(コンクリートの表面処理)では、1.0m×1.0mの試験壁面に吐出圧力120MPa・150MPa・180MPaの3パターンを当て、監督職員の立会のもとで条件を決めています。ライニングの剥離でも、手順は同じです。小さな範囲を剥がし、素地の状態を発注者・防食業者の立会で確かめてから、本施工に入ります。
剥がす方法は、工具・ブラスト・ウォータージェットの3つです
| 方法 | 剥がし方 | 出てくるもの |
|---|---|---|
| 動力工具・手工具 | 削る・かき取る | 被覆の破片と粉じん |
| ブラスト | 研削材を吹き付けて削る | 被覆の粉と研削材の混合物 |
| ウォータージェット | 超高圧の水の水圧で除去する | 被覆の破片を含む水と汚泥 |
鋼材の塗替えでは、国土交通省の要領がブラスト処理を原則としています。ブラストができない現場では、動力工具と手工具を併用します。
ウォータージェットは研削材も薬剤も使いません。水だけで被覆を除去します。コンクリートでは劣化部から先に取れるため、健全なコンクリートを残しやすい工法です(仕組みはウォータージェットの仕組み)。一方で、使った水と汚泥を集めて処分する作業が必ず発生します。 排水の処分先を決められない現場には、向いていません。
コンクリート面:仕様書が求めるのは「躯体品質」と「表面品質」
JSの土木工事一般仕様書(令和7年4月)の第509条6に、防食被覆層を施すコンクリートについての定めがあります。
受注者は、防食被覆層を施すコンクリート表面(以下、「被覆対象コンクリート」という。)については、事業団の定める「下水道コンクリート構造物の腐食対策抑制技術及び防食技術マニュアル」の規定に基づき、被覆対象コンクリートの躯体品質及び表面品質を確保しなければならない。
(日本下水道事業団「土木工事一般仕様書」令和7年4月 第509条6)
同じ仕様書の品質管理計画表(防食被覆工(塗布型ライニング工法))は、被覆に入る前の工程を次の順で並べています。
- 対象コンクリートの躯体処理
- 対象コンクリートの前処理
- 対象コンクリートの表面処理
- 素地調整面の状態・素地調整層の確認
剥がす工程は、この1より前です。剥がし残しや剥がす途中で傷めた部分は、そのまま躯体処理の手間に回ります。 仕様書は、検査で被覆対象コンクリートに不良箇所が見つかった場合、防食被覆工事の受注者と協議して必要な処置をとるよう求めています。剥がす側と塗る側で、仕上がりの基準を着工前にそろえておく必要があります。
鋼材面:塗替えの素地調整1種は ISO 8501-1 Sa2 1/2 相当
鋼材のタンクや配管の塗替えについては、国土交通省の「機械工事塗装要領(案)・同解説」が素地調整を1種から4種に分けています。
| 程度 | 内容 | 仕上がり |
|---|---|---|
| 1種 | ブラスト処理で塗膜・さび・付着物を除去し、清浄な金属面とする | ISO 8501-1 Sa2 1/2 相当 |
| 2種 | 動力工具・手工具で塗膜・さび・付着物を全て除去し、金属面を露出させる | ISO 8501-1 St3 相当 |
| 3種 | 活膜は残し、塗膜不良部・さびを除去する | ISO 8501-1 St3 相当 |
| 4種 | 劣化物・付着物の除去と目粗しのみ | ISO 8501-1 St2 相当 |
同じ要領には、密着について次の記述もあります。
塗料は一般に平滑な面よりも適度に粗な面に塗布した方が,接触面積が大きく物理的な付着効果が大きいのでよく密着する。
(国土交通省「機械工事塗装要領(案)・同解説」令和3年2月)
清浄にすることと、適度に粗くすることの2つが、素地調整の目的です。
ウォータージェットで鋼材の素地を出す場合の等級は、ISO 8501-4:2020 が定めています。規格名に「高圧ウォータジェットによるラストフラッシング等級」とあり、水で処理した後の鋼材面に出るさびの程度も等級に含まれます。再塗装までの段取りは、特記仕様書に書かれた等級で変わるため、着工前の確認が必要です。塗膜を剥がす場合の工法の使い分けは、鋼構造物の塗膜除去で整理しました。
ライニング剥離後の検査:素地の状態から、ピンホール・接着強さまで
JSの土木工事一般仕様書の品質管理計画表は、塗布型ライニング工法の管理項目として次を挙げています。
| 段階 | 管理項目 |
|---|---|
| 対象コンクリート面の処理 | 躯体処理/前処理/表面処理 |
| 素地調整層の施工 | 素地調整面の状態/素地調整層の確認 |
| 防食被覆層の施工 | 外観/端部/硬化/ピンホールの有無/接着強さ/施工厚さ |
剥がす工程の出来は、次の工程の項目に表れます。剥がした面に弱い層が残っていれば、接着強さの確認で下地側から破断する可能性があります。付着強度の考え方は、防食工事の下地処理が寿命を決めるで解説しています。管理基準値と確認の頻度を決めるのは、工事ごとの計画表と特記仕様書です。
排水:産業廃棄物として処分するか、処理場の管理者と協議して処理します
2012年のマニュアル改訂では、劣化部を除去するときに出る排水の扱いが追記されました。
劣化部除去に伴う排水は,産業廃棄物として処理すること,または下水道施設管理者との間で協議が整った場合には下水処理場において処理することのいずれかの方法によるものとする。
(桑嶋知哉、同上「4.3 補修工事等における劣化部除去工の排水処理事項の追加」)
検査では、協議したとおりに処理したことを、施工状況の写真・マニフェスト・数量計算書・水質データなどで確認を受けます。ウォータージェットでライニングを剥がす場合も、排水と汚泥の発生は避けられません。処分の方法は、工法を決める前に施設の管理者と詰めておきます。(関連:ウォータージェットの排水処理/消化槽・沈殿池の下地処理)
着工前に確認すること
- 既設の被覆を特定する。 竣工図書と補修記録で、材料と施工年を確かめます
- 特記仕様書の素地の基準を読む。 コンクリートなら表面品質、鋼材ならISOの等級が書かれているかを見ます
- 剥がす側と塗る側で、仕上がりをそろえる。 再施工するライニングの種類で、求められる下地が変わります
- 排水と廃棄物の処分先を決める。 産業廃棄物とするか、処理場で処理するかを管理者と協議します
- 試験施工の範囲と立会を決める。 本施工の条件は、剥がした素地を見てから決めます
まとめ
防食ライニングの剥離は、次のライニングを施工できる素地まで戻す工程です。 剥がす相手は施工年代で違い、樹脂・ゴム・シート・モルタルで厚さも性質も変わります。
剥がした後に仕様書が確かめるのは、素地の状態と、再施工した層のピンホール・接着強さ・厚さです。ウォータージェットは水だけで被覆を除去する方法で、排水と汚泥の処分先が着工前に決まる現場なら選択肢に入ります。
ご相談ください 竣工図書と特記仕様書を見せていただければ、ウォータージェットで剥がす段取りが組めるかどうかを率直にお答えします。 ほかの方法のほうが合う現場なら、そうお伝えします。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。
本記事で参照した資料
- 日本下水道事業団「土木工事一般仕様書 土木工事必携」令和7年4月(第509条6/第708条/品質管理計画表 防食被覆工(塗布型ライニング工法))
- 桑嶋知哉「『下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル』の改訂」コンクリート工学 Vol.50 No.11、2012年11月(表-1/4.1/4.3/5.)
- 国土交通省「機械工事塗装要領(案)・同解説」令和3年2月(被覆防食の種類/ライニング等/表3.2-2 塗替塗装の素地調整の程度)
- 東京都下水道局「人孔防食被覆(補修)工法「シートライニング工法」技術評価基準」令和3年4月(3.用語の定義)
- 日本規格協会「ISO 8501-4:2020」2020年10月15日発行(規格名称)
- 国土交通省北陸地方整備局 掲載資料「WJ表面処理施工の実施について」(柿川水門修繕工事・工期 平成20年10月〜平成21年3月)
いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。JSのマニュアルは2012年以降も改訂されています。工事の計画には、発注時点の最新の仕様書・マニュアルを当ててください。