この記事の要点
- 煙突用断熱材は、国のマニュアルで「石綿含有保温材等(レベル2)」に分類されます。 除去するときは、大気汚染防止法と安衛法・石綿則の両方の届出の対象になります。
- 煙突用断熱材の除去工法は、大きく4つです。 ゴンドラでの人力、機械的な掻き落とし、高圧水での掻き落とし、独立煙突を切断して躯体ごと除去する方法で、マニュアルは掻き落とす工法が「主流となってきている」と書いています。
- 煙突では、負圧の管理と取り残しの確認に手間がかかります。 筒の中に上昇気流が生じやすく、水を使う工法では隔離空間の圧力が高くなるため、集じん・排気装置に余裕を持たせる計画が求められます。
煙突用石綿断熱材とは、煙突の内側に張られた、石綿を含む断熱材のことです。 厚生労働省と環境省のマニュアルには、煙突用断熱材は昭和39(1964)年以降に存在するという記述があります。解体や改修でこの断熱材を除去するときは、筒の中という閉じた空間で、上下に長い隔離を保ちながら作業することになります。この記事では、仕上塗材を扱った石綿含有仕上塗材の除去とウォータージェット工法と重ならないよう、煙突に絞って、マニュアルの原文を工事の順に整理しました。
分類:煙突用断熱材は「レベル2」、セメント円筒は「レベル3」
マニュアルは石綿含有建材を4つに分類し、煙突に関わるものは2つの分類にまたがります。
| 煙突の部材 | 分類 | マニュアルの発じん性 |
|---|---|---|
| 煙突用石綿断熱材 | 石綿含有保温材等(レベル2) | 高い |
| セメント円筒 | 石綿含有成形板等(レベル3) | 比較的低い |
大気汚染防止法の区分では、煙突用断熱材は「石綿を含有する断熱材」として、特定建築材料の一つです。同じ煙突でも、内側の断熱材と外側の円筒では、求められる措置と届出が変わります。
断熱材の劣化要因について、マニュアルの記述は次のとおりです。
煙突断熱材(排ガスにさらされる、陣笠がないものは雨雪に特にさらされる、特に寒冷地では内部に浸透した水分の凍結が劣化要因となりうる)
(厚生労働省・環境省「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」p.272)
調査:灰出口で採取し、昭和52年以降の二重構造に注意します
煙突の調査には、マニュアルが名指しで挙げる注意点が3つあります。
- 落下した破片があります。 劣化した断熱材の破片が煙突下部に落ちている場合があり、灰出口を開けるときも石綿則が適用されます(p.92)
- 二重構造は見落としやすくなります。 昭和52(1977)年からライナー層と断熱層の二重構造になり、スレート管だけに見えて断熱材が見落とされがちです。断熱材に石綿を含まなくても、ライナー付きの円筒管に含まれている場合があります(p.Ⅰ-57、Ⅰ-61)
- 分析値が低く出ることがあります。 燃焼で生じた硫酸塩が蓄積し、石綿の含有率が見かけ上低くなる場合があります。マニュアルは、その可能性を分析結果報告書に記載するよう求めています(p.Ⅰ-63)
試料は、原則として灰出口で採取します。安全が確保できる場合は、頂部でも採取したほうが望ましいとされています(p.Ⅰ-21)。
煙突は、石綿が使われているおそれが高い工作物(特定工作物)の第六号です。建築物に設ける排煙設備等の建築設備は、この号から除かれています。特定工作物の解体・改造・補修で請負代金の合計が100万円以上の工事は、事前調査結果の報告の対象です(p.93、p.100)。
届出:着工の14日前までに、2か所へ出します
断熱材の除去は、大気汚染防止法と安衛法・石綿則の両方で届出の対象です。届出の対象工事は、マニュアルに次のように書かれています。
作業実施等の届出対象となる工事は、石綿含有吹付け材並びに石綿を含有する断熱材、保温材及び耐火被覆材に係る解体等工事である。
(同マニュアル p.111)
| 法令 | 届け出る人 | 届出先 | 期日 |
|---|---|---|---|
| 大気汚染防止法 第18条の17 | 発注者等 | 都道府県知事(委任された市は市長) | 解体等工事の開始の14日前まで |
| 安衛法 第88条第3項(計画の届出) | 事業者(建設業・土石採取業) | 労働基準監督署 | 除去等作業の開始の日の14日前まで |
| 石綿則 第5条(作業の届出) | 上記以外の業種の事業者 | 労働基準監督署長 | あらかじめ(作業を開始するまで) |
計画の届出の添付書類には、負圧除じん装置や汚染除去室の位置と構造、隔離の養生方法、湿潤方法、換気計画を明記します(p.113)。工法が決まらないと、届出の書類がそろいません。
除去工法の種類は4つです
マニュアルの「石綿含有煙突用断熱材を除去する方法」(p.178)では、どの方法も負圧隔離養生の措置を講じたうえで行います。挙げられている方法を表にまとめました。
| 工法 | マニュアルの記述 | 向く煙突 |
|---|---|---|
| ゴンドラで人力除去 | ゴンドラに乗りながら人力で除去することが可能な場合がある | 内径が60cmを超える煙突 |
| 躯体ごと除去 | 煙突を切断しながら躯体と一緒に断熱材を除去する | 独立煙突 |
| 機械的に掻き落とす | 先行して機械的に掻き落とす工法 | 躯体打ち込み・独立煙突を問わない |
| 高圧水で掻き落とす | 高圧水を用いて掻き落とす工法 | 躯体打ち込み・独立煙突を問わない |
そのため、躯体打ち込みの煙突、独立煙突問わず、煙突断熱材の除去はこれらの方法が主流となってきている。
(同マニュアル p.178)
掻き落とす工法の一部は、(一財)日本建築センターの建築技術審査証明を取得済みです。マニュアルは、どの工法も原理的には一般の除去作業手順に準じるとしたうえで、煙突は隔離作業場内に上昇気流が生じやすいため、負圧管理に十分な配慮が必要だと書いています。除去に取りかかる前に、断熱材を薬液等で湿潤化する手順も、一般の除去作業と同じです(p.155)。
煙突の負圧管理:集じん・排気装置を稼働させてから開口部を開けます
煙突は、上下に開いた筒です。マニュアルは、除去時の空気の流れについて次のように書いています。
煙突では、ドラフト現象による上昇気流が発生することや、詰まっていた除去物がまとめて落下することで下向きの風の流れ(ずい伴流)が発生し、排出口から石綿等の粉じんが押し出されることがあるため、石綿等の粉じんの飛散、漏えいが生じないよう、セキュリティゾーンの出入口を含めた隔離空間を密閉することが重要となる。
(同マニュアル p.132)
同じ箇所で求められている手順は、次のとおりです。
- 煙突下部の作業室の集じん・排気装置を稼働して煙突内の負圧を確保してから、煙突開口部の養生をとりはずす
- 集じん・排気装置は、内部の空気を1時間に4回以上換気できる台数以上を設置する
- 頂部は風圧を受けやすいため、沿岸部や山間地では隔離シートの外側を垂直ネットで補強する等の対策を必要に応じて行う
- 台風等で工事を中断するときは、煙突開口部を養生する
マニュアルの用語集には「陽圧回避養生」という語もあります。断熱材の崩落時に生じる、下部隔離区域の気積と圧力の増加を一時的に回避するための養生です(p.74)。筒の中で落ちてくる除去物への備えが、煙突の養生の特徴です。
水を使う場合の負圧:目安は-20〜-40Pa
マニュアルの付録には、煙突解体時にウォータージェット工法で断熱材を除去する場合の例があります。
煙突解体時にウォータージェット工法で断熱材を除去する場合、隔離空間内部の圧力が高くなり通常の計算による集じん・排気装置の設置台数では、負圧を確保できない状況となるおそれがあることから、-20~-40Pa 程度を目安に確保できる、十分余裕がある集じん・排気装置を設置する計画とする。
(同マニュアル 付録Ⅲ p.Ⅲ-5)
一般の除去作業では、マイクロマノメーターで測る作業場内の差圧は-2〜-5Paが目安となります(p.154)。水を使う煙突の除去の目安は、これより大きな値です。
付録は、ほかに次の3つの対策を挙げています。
- セキュリティゾーンの出入口を2重扉型のエアーシャワールームやファスナー付きプラスチックシート等にする
- 集じん・排気装置と対角線上の位置に、逆流防止の機能を持つ給気口を設ける
- 強風時に隔離空間内が陽圧になるおそれがあるときは、作業を中止する
大型の集じん・排気装置の例は、200V/400Vの動力で稼働するものです(p.Ⅲ-1)。水を使う工法を選ぶ場合は、電源と集じん・排気装置の能力を、工法と同時に決めます。 使った水の回収と処理も、同じ時期に決める項目です(関連:ウォータージェットの排水処理)。
取り残し:段差部と底部に残りやすく、確認にはカメラを使います
マニュアルの付録には、煙突断熱材の取り残しの事例写真もあります。水を使った除去で挙げられている要因は、次のとおりです。
- 水量や圧力等の不足で、煙突頂部以外が除去されていなかった
- 水量の不足と除去速度の速さで、円形の筋状に取り残しが出た
- 断熱材の接合段差部や、底部コンクリートの外周部に、断熱材が食い込んで残った
完了検査のときに煙突内へ蒸気が充満し、目視の確認が不完全だった事例も、同じ付録にあります。煙突底部の中央に雨水等の排水ドレンがある場合は、除去時に密栓するよう書かれています。
取り残しの確認方法として、本文には次の一文があります。
煙突の断熱材等、直接目視できない箇所についてはCCDカメラなどを活用する。
(同マニュアル p.241)
確認は、負圧隔離養生を解除する前に行います。確認するのは、建築物石綿含有建材調査者等や、施工に関わった石綿作業主任者等の、必要な知識を持つ者です(p.241)。
ウォータージェットは水圧で除去する工法で、水量と圧力と除去の速さが仕上がりを左右します。付録の事例でも、取り残しをビデオカメラで確認したあと、遠隔高圧水洗工法による再度の除去が行われました(関連:ウォータージェットはつりの機械)。
今日、確認できること
- 煙突が建築物の一部か、独立した工作物かを確認する。 事前調査を行う者と、選べる工法が変わります
- 煙突の内径と高さを図面で見る。 内径が60cmを超えるかどうかで、ゴンドラでの人力除去が候補に入るかが決まります
- 昭和52年以降の煙突か、ライナー付きかを確認する。 二重構造なら、断熱材と円筒管の両方を調べます
- 底部のドレンと、動力電源の有無を確認する。 水を使う工法では、密栓と集じん・排気装置の電源が段取りに入ります
まとめ
煙突用断熱材はレベル2の石綿含有建材で、除去には着工14日前までの届出が2か所に必要です。 除去工法は人力・躯体ごと・機械での掻き落とし・高圧水での掻き落としの4つで、マニュアルでは掻き落とす工法が主流となってきています。
煙突で要となるのは、上昇気流と落下する除去物に備えた負圧管理と、筒の中の取り残しの確認です。水を使う工法を選ぶ場合は、-20〜-40Paを目安にした集じん・排気装置と、水の回収の段取りを、工法と同時に組みます。
ご相談ください 煙突の図面と事前調査の結果を見せていただければ、ウォータージェットで段取りが組めるかどうかを率直にお答えします。 別の工法のほうが合う煙突なら、そのようにお伝えします。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。
本記事で参照した資料
- 厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課・環境省水・大気環境局環境管理課「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」令和3年3月(令和8年2月改正)(表4.1.1/4.3.4/4.5/4.7.2/4.7.3/4.10.3/4.15.3/付録Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)
- 環境省「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」掲載ページ
いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。石綿の規制は改正が続いています。 工事の計画には、発注時点の最新の法令・マニュアルと、自治体の条例で必ずご確認ください。