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工法解説

外壁タイルの剥離 ― 原因と調査(10年ごとの全面打診・赤外線)、浮きの境目で決まる改修工法と張替え時の下地処理

2026-09-26 / SANTEC COLUMN

この記事の要点

  1. タイルの剥離は、どの層の境目で浮いているかで直し方が変わります。 下地モルタルと躯体の境目の浮きか、張付けモルタルの境目の浮きかで、国の改修仕様書が示す撤去の深さと、使える工法が分かれます。
  2. 建築基準法の定期報告では、おおむね10年に一度、落下のおそれがある部分の全面打診等が求められます。 令和4年の告示改正で、打診と同等以上の精度を持つ無人航空機による赤外線調査も、打診等に含まれることが明確になりました。
  3. 張り替えるときの下地処理は「特記による」とされ、高圧水洗で目荒しをする場合は試験施工と監督職員の承諾が必要です。 張替え後は全面打診と引張接着試験(0.4N/mm²以上など)で確認します。

外壁タイルの剥離とは、タイル・モルタル・コンクリート躯体が重なった仕上げ層のどこかの境目が離れ、浮きや剥落が生じた状態のことです。 浮いた部分をそのままにしておくと、やがて剥落につながる可能性があります。落ちれば、下を歩く人に当たるおそれも出ます。官庁の改修工事で基準になるのは、「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」の4章4節[タイル張り仕上げ外壁の改修]です。この記事では、同じ仕様書と国・建築研究所の資料を開いて、原因・調査・工法の選び方・張替え時の下地処理を順に整理しました。

剥離は「どの層の境目か」で整理します

モルタルでタイルを張った外壁は、躯体の上に下地モルタル、張付けモルタル、タイルが重なった構造です。下地モルタルを設けずに躯体へ直接張る「直張り」もあります。建築研究所の資料(建築研究資料No.145、2013年)は、浮きが生じる境目を次のように分けました。

張り方 浮きが生じる境目
下地モルタルあり コンクリートと下地モルタル/下地モルタルと張付けモルタル/張付けモルタルとタイル
直張り コンクリートと張付けモルタル/張付けモルタルとタイル

同じ資料には、直張りがマンション等のタイル張りで主流になっており、直張りの浮きはコンクリートと張付けモルタルの境目で剥離する割合が多いと書かれています。浮いている境目の位置が、撤去の深さと工法の選択に直接かかわります。

原因:温度と湿度の変化で、層ごとの伸び縮みがずれる

建築研究所の平成19年度講演会テキストは、経年劣化による剥離の主な要因に、外気の温湿度変化による伸縮を挙げています。タイル・モルタル・コンクリートは温度や湿度による膨張の度合いがそれぞれ違い、同じ変化を受けても伸び縮みの量がそろいません。この差の名前が「ディファレンシャルムーブメント」です。

ディファレンシャルムーブメントは外気環境変化により日々発生し、材料間に疲労が蓄積することで剥離が生じる。

(建築研究所「外装タイル張り仕上げ材の経年劣化による剥離・剥落発生のメカニズム」BRI-H19講演会テキスト)

同じテキストの解析によると、外気温が下がるとき、モルタルとコンクリートの境目へ引張応力が作用し、剥離が発生しやすい状況になります。柱などに囲まれて動きを拘束される部分では、仕上げの端部に負荷が集中し、端部から剥離が発生しやすいことも実験で確かめられました。モルタルが適切な塗厚でない場合は、この伸縮の差を吸収しきれず、早期に剥離が発生することがあります。

もう1つの経路は、ひび割れからの雨水です。建築研究資料No.145によれば、タイル目地やモルタルのひび割れから雨水などが浸入し、各層の境目に悪影響を及ぼすことが考えられます。端部の負荷を和らげるには伸縮調整目地の設置が有効とされ、講演会テキストは、目地のシーリング材の耐用年数を一般に5〜10年程度としています。

調査:定期報告では、おおむね10年に一度の全面打診等

建築基準法第12条の定期報告で、外壁の調査方法を定めているのは平成20年国土交通省告示第282号です。国土交通省の技術的助言(令和4年3月29日)は、その内容を次のように説明しました。

おおむね6ヶ月から3年以内に一度の手の届く範囲の打診等に加え、おおむね 10 年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等を求めている。

(国土交通省 国住指第1581号・国住参建第3982号 令和4年3月29日)

対象は「タイル、石貼り等(乾式工法によるものを除く。)、モルタル等」です。手の届く範囲で打診する箇所として、告示は開口隅部・水平打継部・斜壁部等を挙げています。竣工後や外壁改修後などから10年を超えた場合は全面的な打診等で確認しますが、3年以内に外壁改修等が行われることが確実な場合と、別途歩行者等の安全を確保する対策を講じている場合は除かれます。

有機系接着剤で張ったタイルには、別の方法もあります。平成30年5月23日の技術的助言(国住防第1号)で、施工記録で下地と接着剤を確認できることを前提に、各階1箇所の引張接着試験で確認する方法も差し支えないとされています。

赤外線調査は、先に打診と突き合わせてから使います

令和4年1月18日の告示改正で、打診以外の方法として、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する無人航空機による赤外線調査が明確化されました。地上に設置した赤外線装置による調査も、打診等に含まれています。

赤外線調査は、タイル表面の温度差から浮きの有無や程度を調べる方法です。精度の判定に参照されるガイドライン(令和4年3月)は、次の手順を求めています。

赤外線調査で浮きの範囲の見当をつけ、改修の段階ではテストハンマー等で範囲を確定します。改修仕様書4.3.4(1)では、補修範囲を「テストハンマー等により、はく落のおそれがある浮き部について確認し」、アンカーピンニング等の位置をチョーク等で明示する手順になっています。

工法の選び方:タイルを残すか、撤去するか

改修仕様書4.1.4(3)が挙げるタイル張り仕上げ外壁の浮き部改修工法は9種類で、どれにするかは「特記による」とされます。大きく分けると、タイルを残して固定する工法と、撤去して張り替える工法の2つです。

分類 工法 要点(仕様書の標準)
タイルを残す アンカーピンニング(部分・全面)エポキシ樹脂注入工法ほか ピンは一般部分16本/㎡、見上げ面・ひさしのはな・まぐさ隅角部分等は25本/㎡。構造体コンクリートに30mm程度穿孔し、穿孔位置は近くの目地へ移す
注入口付アンカーピンニング工法(部分・全面) ピンは一般部分9本/㎡、指定部分16本/㎡
注入口付アンカーピンニングエポキシ樹脂注入タイル固定工法 タイル中央に穿孔してピンを打ち込み、タイルを固定する。小口平以上が目安
撤去して張り替える タイル部分張替え工法 下地モルタルを撤去せず、1か所0.25㎡程度以下
タイル張替え工法 下地モルタルを撤去する

撤去するときの切り込み深さも、浮きの境目によって変わります。仕様書4.4.4(2)は、ダイヤモンドカッター等で目地に沿って健全部分と縁を切り、下地モルタルと構造体コンクリートの境目の浮きなら構造体コンクリートの表面まで、それ以外は下地モルタルの表面までと定めています。タイル片は、のみ・たがね等で健全部分への損傷が拡大しないようはつり撤去します。

浮きの境目で、使える工法が変わります

建築研究資料No.145は、浮きの境目ごとに使える工法を表にまとめました。当時の「建築改修設計基準及び同解説」で選定できる工法は、次のとおりです。

浮きの境目 選定できる工法
コンクリートと下地モルタル タイル張替え工法/アンカーピンニング各工法/タイル固定工法
下地モルタルと張付けモルタル、張付けモルタルとタイル タイル部分張替え工法/タイル固定工法
直張りのコンクリートと張付けモルタル タイル部分張替え工法/タイル固定工法

同じ資料によれば、アンカーピンニング工法は下地モルタルからの浮きを想定して設計されています。直張りのように張付けモルタルだけの薄い層に使うと、規定量の樹脂を注入したときの圧力でタイルがせり上がることがある、という指摘もあります。タイル固定工法はどの境目の浮きにも適用できますが、モザイクタイルのように小さいタイルではピンの本数が非常に多くなり、費用が高くなるとされています。

浮きの境目は、打診だけでは決めきれない場合があります。張り方(下地モルタルの有無と厚さ)を竣工図や過去の改修記録で確かめてから、工法を特記に書く順番です。

張り替えるときの下地処理:方法は特記、目荒しは試験施工で決める

タイル張替え工法で下地モルタルまで撤去すると、コンクリートの素地面から作り直すことになります。撤去後の下地面については、仕様書が次の3つを順に定めています。

  1. 水洗いで接着を妨げるものを取り除く。 4.4.3(3)は「デッキブラシ等で水洗いを行い、モルタル等の接着を妨げるものを取り除く」としています
  2. 下地処理の方法は特記で決める。 4.4.8(7)は、下地モルタル塗りを行うコンクリート素地面の下地処理の方法を「特記による」としています
  3. 目荒しをする場合は、試験施工のうえ承諾を受ける。 目荒し工法による場合は4.3.10(3)の(ウ)と(エ)によります

(ウ) コンクリート壁面に高圧水洗処理で目荒しを行う場合は、水圧及び目荒し時間を適切に設定し、モルタルの接着に適した粗面に仕上げる。

(エ) 高圧水洗処理に先立ち試験施工を行い、目荒しの状態について監督職員の承諾を受ける。

(国土交通省「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」4.3.10(3))

粗さや水圧の数値は、仕様書に書かれていません。目荒らしの程度を試験施工で決める手順は、超高圧洗浄による目荒らしで整理しています。

ウォータージェットが役に立つのは、撤去後の下地処理の段階です。水圧で表面を処理するので、打撃を与えずに素地面を粗面に仕上げることが可能になります。一方で、タイルを残して固定する工法には下地処理の工程が無く、ウォータージェットを使う場面は生じません。外壁で水を使う場合は、足場の養生で水と削りかすを受け、窓や設備に水がかからない段取りを先に組みます(関連:ウォータージェットの排水処理)。

張り替えた後の確認:全面打診と引張接着試験

仕様書4.4.8には、張替えの前後に確認の工程があります。

セメントモルタルによるタイル張りの合格基準は、表4.4.3の次の値です。

0.4N/mm2 以上、かつ、コンクリート下地の接着界面における破壊率が50%以下

(同 表4.4.3)

下地処理の出来は、次に載せるモルタルが付いているかで結果に表れます。試験体の位置は監督職員の指示によるため、目荒しの試験施工で承諾を受けた面を基準面として記録しておけば、試験結果と照らし合わせることが可能です。なお、施工中や施工後の気温が5℃以下になると予想される場合は、原則として施工しないことも定められています(4.4.8(4))。

まとめ

タイルの剥離は、温度と湿度の変化による層ごとの伸縮の差や、ひび割れからの雨水で、層の境目が離れて生じます。 定期報告ではおおむね10年に一度の全面打診等が求められ、打診と同等以上の精度を持つ赤外線調査も認められています。

工法は、浮きの境目と張り方から選びます。下地モルタルまで撤去して張り替える場合、下地処理の方法は特記で決まり、高圧水洗で目荒しをするなら試験施工と承諾が前提です。

ご相談ください 特記仕様書と撤去後の下地面の状況を見せていただければ、ウォータージェットで下地処理の段取りが組めるかどうかを率直にお答えします。 タイルを残す工法が合う現場なら、そのようにお伝えします。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。


本記事で参照した資料

いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。定期報告の告示と改修仕様書は改正が続いています。 工事の計画には、発注時点の最新の告示・仕様書と、その工事の特記仕様書でご確認ください。

よくある質問

外壁タイルが剥離する原因は何ですか?
主な要因は、外気の温度と湿度の変化による伸縮です。タイル・モルタル・コンクリートは伸び縮みの量が違い、その差が日々繰り返されて境目に疲労がたまります。ひび割れから浸入した雨水も、各層の境目に悪影響を及ぼすと考えられています。
外壁タイルの全面打診は何年ごとに必要ですか?
おおむね10年に一度です。建築基準法の定期報告で、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等が求められています。3年以内に外壁改修等が確実な場合などは除かれます。
打診の代わりにドローンの赤外線調査で報告できますか?
できます。令和4年の告示改正で、打診と同等以上の精度を持つ無人航空機による赤外線調査が打診等に含まれることが明確になりました。事前に同じ部位で打診と突き合わせ、検出が難しい部位は打診で調べます。
タイルの浮きは、張り替えずに補修できますか?
できます。アンカーピンニング工法など、タイルを残して固定する工法が改修仕様書に定められています。ただし直張りの張付けモルタル層の浮きなど、浮きの境目によっては使える工法が限られるため、張り方を確かめてから選びます。
タイルを張り替えるとき、下地処理はどうしますか?
方法は特記仕様書で決まります。撤去後の下地面は水洗いで接着を妨げるものを取り除き、高圧水洗で目荒しをする場合は試験施工を行って監督職員の承諾を受けます。張替え後は全面打診と引張接着試験で確認します。

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