この記事の要点
- コンクリートの爆裂は、鉄筋の錆が膨らんで、かぶりコンクリートを押し割る現象です。 錆の原因は、塩化物イオンの浸透(塩害)と中性化の2つが代表です。
- 鉄筋の錆には、進み具合を5段階で見る基準(鉄筋腐食グレード)があります。 国の検討資料は、グレード4以上になると剥落等の危険性が高いと整理しています。
- 補修は「はつる → 錆落とし → 防錆処理 → 断面修復」の順です。 鉄筋が腐食している場合は鉄筋の裏まではつり、ケレンで錆を除去してから防錆処理を行います。
コンクリートの爆裂とは、内部の鉄筋が錆びて体積が増え、その膨張圧でかぶりコンクリートにひび割れ・浮き・剥落が生じる現象の通称です。 外から見えるのは剥がれた表面ですが、原因は中の鉄筋にあります。この記事では、錆が生じる理由、錆の程度を測る基準、はつる範囲、鉄筋の錆落としと防錆処理を、国と研究機関の資料で確かめた順に整理しました。
爆裂の原因:鉄筋の錆が膨らみ、かぶりを押し割る
コンクリート中の鉄筋は、強いアルカリ性の中で表面に不動態皮膜ができ、錆から守られています。この皮膜を壊す経路は、主に2つあります。土木研究所のマニュアルが挙げるのは、塩害と中性化です。
| 原因 | 皮膜が壊れる条件(資料の記載) | 劣化の供給源 |
|---|---|---|
| 塩害 | 細孔溶液中に一定以上の塩化物イオンが含まれる。腐食限界の目安は1.2kg/m³以上 | 海砂などの材料(初期塩分)/飛来塩分・凍結防止剤(外来塩分) |
| 中性化 | 炭酸化が鋼材まで到達し、pHが11程度未満になる | 大気中の二酸化炭素 |
皮膜が壊れた鉄筋に水と酸素が供給されると、錆は酸化が進むにつれて体積を増します。同マニュアルの、塩害の劣化機構の記述です。
さらに塩化物イオンと水や酸素が供給されると酸化が進行し,水酸化第 2 鉄(Fe(OH)3)や酸化第 2 鉄(Fe2O3)等となって体積が増大し,その結果,コンクリートにひび割れが生じて剥落したり(解説 写真-2.2.1),鉄筋の断面が減少したりするなどの損傷が生じる。
(土木研究所資料 第4433号「コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル 2022年版」)
中性化でも、同じ循環が起こります。錆の膨張圧でできたひび割れから二酸化炭素がさらに入り、腐食とひび割れが互いに進みやすくなると説明されています。塩化物イオンは、かぶりが薄い箇所ほど鉄筋の近くまで届きやすいという注意もあります。中性化の深さと除去深さの考え方はコンクリートの中性化と除去深さにまとめました。
鉄筋の錆の基準:腐食グレード1〜5
鉄筋の錆の程度には、日本建築学会の「鉄筋コンクリート造建築物の耐久性調査・診断および補修指針(案)・同解説」による鉄筋腐食グレードがあります。国土交通省の検討資料に、その表が掲載されました。
| グレード | 症状 |
|---|---|
| 1 | 腐食が無い状態、または表面にわずかな点さびが生じている状態 |
| 2 | 表面に点さびが広がっている状態 |
| 3 | 点さびが広がって面さびとなり、部分的に浮きが生じている状態 |
| 4 | 浮きさびが広がって生じ、コンクリートにさびが付着し、断面積で20%以下の欠損を生じている箇所がある状態 |
| 5 | 厚い層状のさびが広がって生じ、断面積で20%を超える著しい欠損を生じている箇所がある状態 |
同じ資料は、グレード4以上を「剥落等の危険性が高い」線として扱います。
浮きさびが広がって発生することにより、鉄筋コンクリート内部からのひび割れや鉄筋とコンクリートの剥離が生じ、鉄筋腐食グレードが4以上になると剥落等の危険性が高いものと考えられるため、鉄筋腐食グレード4以上が発生している可能性が高いことを判定する基準とする。
(国土交通省「参考資料」①外壁等剥落(判定式の検討))
根拠は、10棟903箇所の調査です。鉄筋に沿った浮き・剥離や鉄筋露出が見られた割合は、グレード3以下の箇所で12.36%、グレード4以上の箇所で63.73%でした。
表面のサイン:錆汁と、鉄筋に沿ったひび割れ
鉄筋の錆は、はつるまで直接は見えません。国土交通省の「要除却等認定実務マニュアル」は、外から見える劣化事象を2段階に分け、観測数から鉄筋腐食の進み具合を判定する方法を示しました。
| 劣化グレード | 劣化事象 |
|---|---|
| A | 鉄筋に沿ったひび割れ、錆汁 |
| B | コンクリートの浮き又は剝離、鉄筋露出 |
判定式の計算結果が判定値以上なら、鉄筋腐食グレード4以上の箇所が95%超の確率で発生している、という読み方です。爆裂として目に入る浮きや剥離は、Bの段階にあたります。
ひび割れの修復だけでは、鉄筋の腐食は止められない
分かれ目は1か所です。補修の工法を選ぶ前に押さえる一文が、土木研究所のマニュアルにあります。
鉄筋の腐食膨張によるひび割れの場合は,ひび割れの修復のみを行っても,鉄筋の腐食は止められないので,さらなる腐食の進行による再劣化が予想される。このため,ひび割れ修復工法は採用せず,腐食した鉄筋のはつり出し,鉄筋のさびの除去,交換を行ったうえで断面修復を行う必要がある。
浮きがある場合も、ひび割れ修復工法は採用せず、浮いた部分をはつり取って断面修復を行うか、巻立て等の落下防止対策を行う必要があると書かれています。錆によるひび割れや浮きの補修は、断面修復が前提です。
どこまではつるか:鉄筋が腐食していれば、鉄筋の裏まで
はつる範囲は、土木と建築の資料で同じ方向を向きます。
| 資料 | はつる範囲の記載 |
|---|---|
| 土木研究所 補修対策施工マニュアル(3.2 既存コンクリートのはつり) | ひび割れ部や鉄筋腐食部は全て除去する。鉄筋が腐食している場合には鉄筋裏まではつる |
| 公共建築改修工事標準仕様書(4.2.3 欠損部改修共通事項) | 監督職員と協議し、鉄筋等の健全部が露出するまでコンクリートをはつる |
鉄筋が腐食していなくても、塩化物イオンの浸透が鉄筋まで到達している場合は別です。土木研究所のマニュアルは、予防処置として鉄筋裏まではつることが望ましいとしています。塩分は部位によって浸透の程度にばらつくため、実際にはつって現地で確認する手順も勧められます。
深さの数値基準の有無や、深く取ったときの耐力確保は、断面修復のはつり深さの記事で、原文を引いて整理しました。
鉄筋の錆落とし:ケレンと除塩
はつり出した鉄筋は、錆を落としてから次の工程へ進みます。公共建築改修工事標準仕様書が定める、欠損部の手順です。
コンクリート躯体欠損部分は、ワイヤーブラシ等でケレンし、汚れ、ほこり、油等の除去・清掃を行う。また、部分的に露出している鉄筋、アンカー金物等がある場合は、監督職員と協議し、鉄筋等の健全部が露出するまでコンクリートをはつり、ワイヤーブラシ等でケレンを行い錆を除去し、鉄筋コンクリート用防錆剤等を塗り付け、防錆処理を行う。
(公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版 4.2.3(2))
塩害を受けた構造物では、錆に加えて塩分も落とします。土木研究所のマニュアルが挙げる除塩の方法は、鉄筋に付着したペーストを丁寧に落とし、多量の流水や温水で洗う方法です。ただし「腐食部分に入り込んだ塩分までを完全に除去することは難しい」とも書かれています。
錆を落とした結果、鉄筋の断面が大きく減っていることもあります。その場合は、交換か増設の段階です。同マニュアルは、鉄筋の損傷が著しい場合は交換、増設等を行うと定めます。
防錆処理の3つの方法と、その位置づけ
錆を落とした鉄筋には、防錆処理を行います。土木研究所のマニュアルの整理では、方法は3つです。
| 方法 | 仕組み(資料の記載の要約) | 留意点(資料の記載の要約) |
|---|---|---|
| 鉄筋防せい剤 | 亜硝酸イオンで、壊れた不動態皮膜を再生・安定化する。鉄筋に塗布、または断面修復材に混入 | 周囲の塩化物イオン量に見合う量の亜硝酸イオンが供給されることが必要 |
| 塩分吸着剤 | 塩化物イオンを吸着・固定し、亜硝酸イオンを放出する | 室内実験では、普通セメントより高炉セメントで腐食抑制効果が高い |
| 犠牲陽極 | 亜鉛等を断面修復部に埋め込み、鉄筋より先に錆びさせる | 亜鉛が消耗すると腐食が急速に進行する。比較的コストが高く、一定以上のかぶり厚も必要 |
どの方法も、鉄筋のケレンの状況で効き目が変わります。位置づけは、次のように記されました。
各工法とも鉄筋のケレンの状況や浸透してくる塩化物イオンの量が防せい効果やその持続時間に大きく影響するなど恒久対策としては不確実な部分も多い。このため,工法・製品のメカニズムを理解した上で,現段階では延命化方策としての位置付けで選定するとともに,施工後の再劣化進行状況のモニタリングが望ましい。
材料の組み合わせにも、同マニュアルが明記した禁止事項があります。
亜硝酸系の鉄筋防食剤とロダン系混和剤を使用した断面修復材を組み合わせて施工するとシアンガスが発生する恐れがあるため,組み合わせて使用してはならない。
防錆材と断面修復材は、製造所の指定の組み合わせで選びます。
ウォータージェットではつる場合
ウォータージェットは、水圧で劣化部を除去する工法です。劣化したコンクリートには水が入り込む隙間があり、水くさび作用で内側から剥がれます。鉄筋は内部に隙間が無く水が入り込めないため、母材はそのまま残り、表面の錆と脆弱物が落ちます(関連:ウォータージェットの仕組み)。はつりと鉄筋まわりの錆落としは、同じ工程の中で進めることが可能です。
土木研究所のマニュアルは、打撃系のはつりについて、鉄筋等の鋼材を痛めないよう注意が必要だと書きます。打撃で既存コンクリートに微細なひび割れが生じ、付着性能が低下する場合があるためです。ダメージが少ない方法として挙げられたのが、ウォータージェット工法でした。
次の点も、事実として押さえておきます。
- 装置が大がかりで、同マニュアルも「全ての断面修復工事に最良とは言い難い面もある」としています。爆裂が数か所の小さな欠損なら、費用でも段取りでも、ハンマーとワイヤーブラシの手順のほうが合います
- 鉄筋が濡れるため、そのままにすると錆びます。防錆剤の塗布と、次工程までの時間管理が要ります(関連:ウォータージェット工法のデメリット7つ)
- 給水と排水の段取りが要ります
浅い部分をブレーカで処理し、付着界面に近い仕上げ段階だけウォータージェットを使う組み方も、同マニュアルで紹介されています。はつる面積が広い現場や、鉄筋の裏まで取る範囲が多い現場ほど、ウォータージェットを検討する意味が大きくなります(関連:ウォータージェットはつりとは)。
まとめ
鉄筋の錆による爆裂は、塩害や中性化で不動態皮膜が壊れ、錆の膨張がかぶりを押し割ることで起きます。 錆の程度は腐食グレード1〜5で見ることができ、国の検討資料はグレード4以上を剥落等の危険性が高い線としています。
補修は、ひび割れを埋めるだけでは腐食が止まらないため、断面修復が前提です。鉄筋が腐食していれば鉄筋の裏まではつり、ケレンで錆を落とし、塩害なら除塩し、防錆処理をしてから断面を戻します。防錆処理の位置づけは延命化方策です。施工後も、再劣化の進み具合を見続けることが勧められます。
ご相談ください 劣化の範囲と図面、調査結果があれば見せてください。ウォータージェットで進めるのが合う現場かどうかを率直にお答えします。 欠損が小さく数が少ない現場なら、答えはハンマーとワイヤーブラシです。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。
本記事で参照した資料
- 土木研究所資料 第4433号「コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル 2022年版」令和4年12月(Ⅰ編 2.2 塩害・中性化の劣化機構/ひび割れ修復工法の選定/Ⅲ編 3.2 既存コンクリートのはつり/3.3 鉄筋の処理)
- 国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」令和7年3月21日(最終改定 令和7年5月12日)(4.2.3 欠損部改修共通事項)
- 国土交通省「参考資料」①外壁等剥落(判定式の検討)(資料内に発行日の記載なし。表3 鉄筋腐食グレードと評価基準/表4)
- 国土交通省「要除却等認定実務マニュアル」令和3年12月(令和6年6月改訂・令和8年3月改訂)(外壁等剝落危険性の判定式・判定値/劣化グレードと劣化事象)
いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。工事の計画には、発注時点の最新の仕様書・特記仕様書で必ずご確認ください。