この記事の要点
- 護岸の補修工法は、変状の種類で分かれます。 部分的なひび割れには樹脂やモルタルの注入、空洞のおそれがある沈下・陥没には空洞部へのモルタル注入や張り換えが、国の海岸保全施設維持管理マニュアルに例として示されています。
- 矢板護岸の補修は、腐食による開孔があるかどうかで工法が変わります。 開孔や変形があれば、鉄筋コンクリートや鋼板を用いた補修・補強が主な工法です。鋼矢板の腐食は、L.W.L.付近からM.L.W.L.の間で起こりやすいとされています。
- 塩害を受けたコンクリートの断面修復では、塩化物イオンが入った範囲まで取り除きます。 はつりの方法は、下地の傷みが少ないウォータージェットと、装置が小さく広く使われる打撃式を、補修の規模と方針で選びます。
護岸の補修とは、波や潮、塩分で傷んだ護岸を、背後の土地を守る機能が保てる状態に戻す工事です。 護岸には、コンクリートで法面や天端を覆う形式と、鋼矢板を打ち込んで土を留める形式があります。形式が違えば、傷み方も、補修の工法も変わります。この記事では、国と公的機関の維持管理マニュアルを開いて確かめた内容を、点検から補修までの順に整理しました。
護岸の補修で守るもの:天端高と、空洞を作らないこと
海岸保全施設維持管理マニュアル(令和2年6月)が示す、堤防・護岸で守るべきものは次の2つです。
堤防・護岸等の防護機能の確保に重要な視点は、住民等の人命損失・重要資産の損失を防ぐ観点からの、堤防・護岸等の「天端高の確保」、「空洞の発生の防止」である。
(農林水産省・国土交通省「海岸保全施設維持管理マニュアル」令和2年6月)
ひび割れや目地の開きで問題になるのは、堤体の土砂が吸い出される入口になる点。目地が開けば「そこから堤体の吸い出しが生じ、空洞化につながるおそれがある」というのが、同じマニュアルの説明です。基礎部分は海面下にあることが多く、吸出しは外から見つけにくいとされています。
コンクリート護岸の補修工法は、変状ごとに例が示されています
点検では、変状を a・b・c・d の4段階で判定します。波返工のひび割れの場合、部材の背面まで達する幅5mm程度以上のひび割れが a、1mm以下のひび割れか、ひび割れの無い状態が d です。変状の種類ごとに、次の工法が例として挙げられています。
| 変状 | 対策工法の例 |
|---|---|
| 部分的なひび割れ | ひび割れ部に樹脂やモルタルを注入する |
| 破損・沈下・目地ずれ(軽微、または堤体土が比較的健全) | 天端被覆工等のオーバーレイや張り換え |
| 広範囲のひび割れ・沈下・陥没・堤体の移動 | 空洞の有無を確認のうえ、空洞部にモルタル注入、前面に張りコンクリート、または撤去して張り換え |
| 目地部や打ち継ぎ部の開き | 軽微なら補強・モルタル注入、顕著なら張り換え |
| 基礎工の露出・移動 | 前面の埋め戻し、根固工の設置・増設、基礎矢板の前面新設など |
注入による補修の位置づけは、次のとおりです。
ひび割れ部の対策後の強度は期待せず、鉄筋やコンクリートの劣化を抑制、あるいは外観上の修復を目的とする場合のみ可能である。
(同マニュアル 表-6.1 対策上の留意点)
広範囲のひび割れや陥没が出ている区間では、まず空洞を確かめます。
矢板護岸:腐食はL.W.L.付近からM.L.W.L.の間で起こりやすい
鋼矢板の点検で狙う位置は、国土交通省港湾局の点検診断ガイドラインに書かれています。
一般に、鋼矢板の腐食は、L.W.L.付近から M.L.W.L.の間で起こりやすいため、可能な限り干潮時で、波浪の穏やかなときに点検診断を行うことが望ましい。
(国土交通省港湾局「港湾の施設の点検診断ガイドライン【第2部 実施要領】」平成26年7月(令和3年3月 一部変更))
腐食が進んで鋼矢板に孔が開くと、裏込・裏埋材が流出し、エプロンの沈下や陥没につながります。劣化度の判定は、腐食による開孔や変形、その他著しい損傷があれば a、無ければ d の2段階です。防食対策が施されていない場合は、潜水士による水中の目視が必須とされています。鋼矢板の前面に土砂が堆積しているときは、開孔から裏埋材が流出している可能性があります。
腐食の進み方を数字で追うときは、鋼矢板の肉厚を測ります。
点検対象位置に付着している海生生物等をケレン等で除去した上で、腐食、亀裂、損傷等の状況を写真撮影又はスケッチする。
肉厚の測定点は、集中腐食が生じやすいL.W.L.以上で2箇所、設計上の最大曲げモーメントが発生する付近で2箇所、計4箇所が標準です。開孔があれば、その周辺の肉厚も測定の対象。付着した海生生物や固着物の除去は、ウォータージェットの用途の一つです。
矢板護岸の補修工法:開孔があれば、鉄筋コンクリートか鋼板で補修・補強
港湾の施設の維持管理計画策定ガイドライン(令和8年改訂版)は、矢板式係船岸の主な変状と補修工法を次のように示しています。矢板式の護岸にも、鋼矢板・防食・上部工の同じ部材があります。
| 部材 | 主な変状 | 主な補修工法 |
|---|---|---|
| 鋼矢板等 | 腐食による開孔や変形・損傷 | 鉄筋コンクリートを用いた補修・補強/鋼板を用いた補修・補強 |
| 被覆防食 | 劣化、損傷 | 部分補修/全面補修 |
| 電気防食 | 防食管理電位が維持されていない | 陽極の取り替え、設置 |
| 上部工(RC) | コンクリートの劣化・損傷 | ひび割れ注入/表面被覆/断面修復/電気化学的防食/撤去、更新等 |
補修の時期の目安として、同じガイドラインは全国の劣化事例から推定した「標準的な劣化速度」を載せています。いずれも暫定値。
| 部材 | 劣化度 c | 劣化度 b | 劣化度 a |
|---|---|---|---|
| 上部工(矢板式) | 9年 | 26年 | 46年 |
| 下部工(被覆防食) | 6年 | 17年 | 30年 |
被覆防食材の耐用年数は、メーカー指定値によります。被覆防食の補修で既存の被覆やさびを落とす作業は、鋼構造物の塗膜除去の記事で整理しました。
上部コンクリートの補修工法:断面修復とひび割れ補修が標準
桟橋の上部工は、塩害による劣化が補修の主な対象になる部材です。沿岸技術研究センターの「港湾コンクリート構造物補修マニュアル」は、工法ごとの適用性を部材別に示しています。
| 工法 | 桟橋上部工(RC) | 矢板頂部コンクリート |
|---|---|---|
| 表面被覆工法 | ○ | △ |
| 断面修復工法 | ○ | ○ |
| 電気防食工法 | ○ | △(流電陽極方式で適用可) |
| 脱塩工法 | △ | × |
| ひび割れ補修工法 | ○ | ○ |
| 打換え工法 | ○ | ○ |
○は標準工法、△は条件により適用可、×は適用不可です。ひび割れの補修は、幅0.2mm程度以下に被覆工法、0.2〜1.0mmに注入工法、1.0mm以上に充填工法が採用される場合が多いとされます。
断面修復では、塩化物イオンが入った範囲まで取り除きます
断面修復で取り除く範囲は、土木研究所の補修対策施工マニュアル(2022年版)に書かれています。
鋼材腐食発生限界濃度を超える塩化物イオンが浸透している範囲は確実に除去する必要があり,鉄筋が腐食していなくても塩化物イオンの浸透が鉄筋まで到達している場合には,予防処置として鉄筋裏まではつることが望ましい。特に,塩分については部位によって浸透の程度にばらつきが想定されるため,実際にはつりを行い,塩分の除去が十分であるかを現地で確認するとよい
(土木研究所資料 第4433号「コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル 2022年版」3.2 既存コンクリートのはつり)
腐食発生限界の塩化物イオン濃度は、港湾の維持管理計画策定ガイドラインに「設計上の値である 2.0kg/m3 が用いられる場合が多いが、実構造物ではこの値を超えることもある」との記載があります。補修設計のための調査で塩化物イオン濃度調査とはつり調査を行うのは、このためです。取り残すと、補修した部分の境界で鉄筋の腐食が進むことがあります。深さの決め方は、断面修復のはつり深さの記事をご覧ください。
はつりの方法:ウォータージェットは下地の傷みが少なく、装置が大がかり
はつり方法の選び方について、同じマニュアルの記述は次のとおりです。
ダメージが少ない方法として機械はつりのウォータージェット工法があり,ウォータージェットによる方法を標準としている発注機関もある。しかしながら,ウォータージェット工法はブレーカ処理等に比較して一般に装置が大がかりで費用もかかることから,全ての断面修復工事に最良とは言い難い面もある。
ブレーカやチッピングハンマーで叩いて壊す打撃式のはつり(ピックはつり)は、施工機械がコンパクトで、規模に関係なく広く採用されています。一方で、打撃によって下地コンクリートの付着面に微細なひび割れが生じる可能性がある、という指摘もあります。ウォータージェットは水圧でコンクリートを除去するため、鉄筋そのものは削れません(関連:ウォータージェットの仕組み)。
両方を組み合わせる方法も紹介されています。
はつり処理の浅い部分をブレーカ処理で行い,仕上げ段階で付着界面に近い部分のみにウォータージェット工法を用いるなどの工夫を行う場合もみられる。
補修の範囲が小さい現場や、装置を据える場所が取れない現場では、ピックはつりのほうが段取りを組みやすくなります。範囲が広く、付着面の傷みを抑えたい現場なら、候補はウォータージェットです。
海際の工事は、潮位と作業時間で工程が決まります
港湾の維持管理計画策定ガイドラインは、外郭施設の維持補修計画に記載する施工条件の例として、次の項目を挙げています。
- 施工期間の制約
- 作業時間の制約
- 仮設工(作業足場等)の要否
- 波浪、潮位、潮流の影響
- 船舶を使用する場合はアクセスの難易度
- 関係機関との調整事項
鋼矢板の腐食が起こりやすいL.W.L.付近の作業は、潮位の表に合わせて工程を組むことになります。ウォータージェットを使う場合は、使った水とはつり殻を海へ落とさない受け方も、着工前に決めておく必要があります(関連:ウォータージェットの排水処理)。
着工前に確かめておきたいのは、次の4点です。
- 点検診断の結果を見る。 部材ごとの劣化度(a〜d)と、変状ランクの判定理由を確認します
- 鋼矢板の防食の種類を確認する。 被覆防食か、電気防食か、無防食かで、点検の方法も補修工法も変わります
- 塩化物イオン濃度の調査結果を確認する。 無ければ、補修設計の前に調査とはつり調査が要ります
- 施工条件を書き出す。 潮位・作業時間・足場・船の要否・関係機関を並べると、1日に作業できる時間が見えてきます
まとめ
護岸の補修工法は、変状の種類と部材で決まります。 コンクリート護岸では注入・オーバーレイ・張り換えが、矢板護岸では開孔の有無に応じて鉄筋コンクリートや鋼板による補修・補強が、国のマニュアルに主な工法として示されています。
塩害を受けた上部コンクリートは、塩化物イオンが入った範囲まで取り除いてから断面修復をします。はつりの方法を選ぶ物差しは、補修の規模と方針です。下地の傷みが少ないウォータージェットと、機械がコンパクトな打撃式のどちらが合うかは、現場ごとに変わります。
ご相談ください 点検診断の結果と補修設計の図面を見せていただければ、ウォータージェットで段取りが組めるかどうかを率直にお答えします。 補修の範囲が小さく点在する現場なら、打撃式のほうが合うこともあります。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。
本記事で参照した資料
- 農林水産省農村振興局防災課・農林水産省水産庁防災漁村課・国土交通省水管理・国土保全局海岸室「海岸保全施設維持管理マニュアル」令和2年6月(第1章 総論/表-5.1/第6章 表-6.1)
- 国土交通省港湾局「港湾の施設の点検診断ガイドライン【第2部 実施要領】」平成26年7月(令和3年3月 一部変更)(3.1.3 鋼矢板等)
- 国土交通省港湾局「港湾の施設の維持管理計画策定ガイドライン(令和8年改訂版)【第1部 総論】」令和8年4月(表-5.10/附表-3.14/附表-3.16/外郭施設の施工条件等)
- 国立研究開発法人土木研究所「土木研究所資料 第4433号 コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル 2022年版」令和4年12月(Ⅲ 断面修復工法編)
- 小澤義之・稲田勉「港湾コンクリート構造物補修マニュアルについて」沿岸技術研究センター論文集 No.19(2019)
いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。維持管理のガイドラインやマニュアルは改訂が続いています。 工事の計画には、発注時点の最新版で必ずご確認ください。