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工法解説

ダムの補修工事|コンクリートの劣化の種類と、ひび割れ補修・はつり・表面処理の進め方

2026-09-26 / SANTEC COLUMN

この記事の要点

  1. ダムの補修で直す劣化は、継目からの漏水、凍結融解による表面の劣化、堤趾部の温度ひび割れなどです。 国土技術政策総合研究所が14ダムの補修事例をまとめた調査で、この分類が示されています。
  2. ダムのひび割れ補修は、注入と充填が中心です。 表面全体が劣化した場合は、劣化部をはつってコンクリートを打ち換えます。遠野ダムでは、1回目の補修から約25年後も健全だったのは、打ち換えた箇所だけでした。
  3. はつりの方法は、規模と環境で選びます。 打撃式は機械が小さく幅広く使われ、ウォータージェットは付着面へのダメージが少ない方法とされています。両方を組み合わせる使い方も、国のマニュアルに載っています。

ダムの補修工事とは、堤体や洪水吐きのコンクリートに生じた劣化・損傷を直し、ダムの安全性と機能を保つための工事です。 国土交通省所管のダムでは、3年に1回以上の定期検査と、管理開始から30年までに着手する総合点検で、状態が評価されています。補修が必要と判断されたら、劣化の種類に応じて工法を選ぶことになります。この記事では、国の点検基準と補修事例の調査を開いて確認できた内容を、工事の段取りの順に整理しました。

点検の周期:定期検査は3年に1回以上

国土交通省の「ダム定期検査の手引き[河川管理施設のダム版]」(平成28年3月)は、検査を「3年に1回以上の頻度で実施することを基本とする」と定めています。直ちに措置を講じる必要があると判定された場合、次回以降の検査の周期は1年短くなります。

長い時間軸でダムを見るのが、ダム総合点検です。「ダム総合点検実施要領」は、実施の時期を次のように定めています。

ダム総合点検は、管理開始後30年までに着手し、以降30年程度に1回の頻度で実施することを基本とする。

(国土交通省 水管理・国土保全局 河川環境課長「ダム総合点検実施要領について」平成25年10月1日)

総合点検の基本調査は、設計に関する調査、漏水量・揚圧力・変形の管理記録の分析、補修箇所を含む現地調査の3つです。必要に応じて、コアリングなどで内部を調べる追加調査も行います。補修の範囲と深さを決める材料は、この段階で集まります。

農林水産省の手引き(令和2年10月)は、国営造成農業用ダムの状態を4段階の健全度で区分しています。

健全度 確認される変状の程度 機能低下の程度
Ⅰ 変状は確認されない 機能低下は生じていない
Ⅱ 軽微な変状が確認される 機能低下は顕在化していない
Ⅲ 変状の進行が確認される 機能低下が顕在化している
Ⅳ 重大な変状が確認される 機能そのものの損失に至る可能性がある

劣化の種類:漏水・凍結融解・温度ひび割れ

国土技術政策総合研究所の「ダム補修事例に関する調査」(国総研資料第262号・平成17年6月)は、14ダムの補修事例を、ダムの型式と現象ごとに分類しました。コンクリートダムの主な現象と、事例で実施された対策は次のとおりです。

現象 起きた場所 事例での対策
試験湛水時の継目漏水 水平打継目・横継目 継目の充填コーキング、セメントミルクや樹脂等の注入(長島・大町・久吉ダム)
管理期間の漏水 堤体下流面の水平打継目、ブロック中央の垂直方向のクラック 注入孔と充填工。起源を確定できない漏水には排水溝の埋設を計画(玉川ダム)
凍結融解による表面の劣化 堤体表面の全面、常用洪水吐の開水路 コンクリートの打ち換え、モルタル吹付け、樹脂塗布(遠野・大佐ダム)
堤趾部のひび割れ 重力式ダムの堤趾部 エポキシ樹脂の注入、セメントミルクの注入(八塔寺川・大佐ダム)
下流面のひび割れ アーチダムの堤体下流面 浸透性防水材の塗布を検討(矢木沢ダム)

大佐ダムの開水路では、底面と隅角部から側壁底部にかけて「アバタ状の劣化」が発生しました。報告書はこれを、凍結融解を主因として「流水の磨耗や湿乾の繰返しが複合したもの」と説明しています。ひとつの箇所に、複数の原因が重なることがあります。

日常の巡視で見る箇所も、国の基準に挙げられています。国土交通省の「河川砂防技術基準 維持管理編(ダム編)」の例示です。

① 監査廊、堤体の上下流面や天端における継目の開き、ひび割れ、コンクリートの剥離・剥落等の有無

② 監査廊、堤体のひび割れや継目、水平打継目からの漏水、エフロレッセンスの有無

④ 洪水吐き(越流部、導流壁、減勢工等)コンクリート部の異状の有無

ひび割れの補修は、注入と充填が中心です

補修事例の調査では、ひび割れと継目漏水への対策は、注入と充填が中心でした。

この3つの事例で、はつりは主な工程になっていません。はつりが工事の中心になるのは、表面全体が劣化した場合です。

表面の劣化は、除去して打ち換えます

遠野ダム(岩手県・1957年竣工)では、凍結融解で堤体の表面全体が劣化しました。2回目の補修で下流面に採用されたのは、「堤体の表面から概ね100㎜程度の劣化部を除去し、コンクリートで打ち換える工法」です。

項目 上流面 下流面
劣化の状態 ジョイントと水際を中心に劣化。昭和50年代に施工した樹脂被膜も劣化 非越流部の全面が劣化。一部は剥離して骨材表面が露出
除去 樹脂除去 1,060㎡。劣化部のはつりは20㎜以上 はつり工 1,210㎡(平均厚さ100㎜)
除去に使った道具 ベビーサンダー(ケレン・縁切り)、電動ピック コンプレッサーとチッパー、ピック、ブレーカーの組合せ
打ち換え 特殊モルタル 約100㎡ コンクリート 605m³(既設の表面から400㎜、総厚500㎜程度)

下流面の除去厚さは、調査ボーリングの結果から決めています。補修に先立って数か所で試掘ハツリを行い、劣化の程度も確かめました。作業中は、状況に応じてフェノールフタレイン試薬で試験をしながら進めています。

はつった面は高圧洗浄機で清掃し、浮きがないかを確認しました。再度の除去が要る箇所は、機械作業では深掘れが懸念されたため、手ハンマーで取っています。深く取りすぎないことも品質です。 そのうえで、はつり面に差し筋(D13)をケミカルアンカーで打ち、表面のひび割れ防止に溶接金網を設置してから、コンクリートを打設しました。

打ち継ぐ面のレイタンス処理はワイヤブラシと高圧洗浄機で行い、4週以上あいた打継ぎ面にはチッピング処理をしています。新旧のコンクリートを付着させる面の荒らし方は、超高圧洗浄による目荒らしの記事が参考になります。

補修工法で持ちが違う:約25年後に健全だったのは打ち換えた箇所

遠野ダムには、竣工から26年目に1回目の補修の履歴があります。1回目の補修では、場所ごとに工法が使い分けられていました。

場所 1回目の補修工法 約25年後の状態
越流部 コンクリートの打ち換え 健全な状態を保っていた
非越流部の下流面 モルタル吹付け 再補修が必要
上流面 樹脂塗布 再補修が必要

これらは、約25年経過して、コンクリート打ち換え箇所のみが健全な状態を保ち、他の工法箇所が要再補修となっており、各工法の耐用年数の違いが伺える。

(国土技術政策総合研究所「ダム補修事例に関する調査」平成17年6月)

2回目の補修の時点で、下流面の吹付けモルタルには剥離が見られ、機能を維持していませんでした。上流面の樹脂は数センチ程度の大きさで割れ、端部にかけてそり返っていたと記録されています。劣化の背景について、報告書は「当時の外部コンクリートの仕様が不十分であったもの」と推定します。工法を比べるときは、次の補修までの年数も判断の材料です。

はつりの方法:打撃式とウォータージェット

劣化部の除去には、チッパーやブレーカーで叩いて砕く打撃式のはつり(ピックはつり)と、超高圧の水圧で劣化部を除去するウォータージェットがあります。ウォータージェットでは、劣化して隙間が増えた部分から先に取れていくため、健全なコンクリートを残しやすくなります。土木研究所のマニュアルは、2つの方法を次のように比べています。

ダメージが少ない方法として機械はつりのウォータージェット工法があり,ウォータージェットによる方法を標準としている発注機関もある。しかしながら,ウォータージェット工法はブレーカ処理等に比較して一般に装置が大がかりで費用もかかることから,全ての断面修復工事に最良とは言い難い面もある。打撃系のはつりは,施工機械がウォータージェット工法に比較してコンパクトで,施工規模に関係なく,幅広く採用されているが,打撃によって下地コンクリートの付着面に微細ひび割れ等が発生する可能性がある。

(土木研究所資料 第4433号「コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル 2022年版」2.3 施工方法の設定)

項目 打撃式のはつり(ピックはつり) ウォータージェット
機械 コンパクト。施工規模に関係なく幅広く採用 装置が大がかりで、費用もかかる
付着面 微細ひび割れ等が発生する可能性がある ダメージが少ない方法とされる
水 給排水の設備は使わない 給水と、削りくずを含んだ水の処理が要る

ダムで関わってくるのは、付着面の傷と凍結融解の関係です。同じマニュアルは、打撃によるはつりについて次のように書いています。

打撃によるはつりの場合は微細ひび割れ等のダメージが残る可能性があり,断面修復の施工当初は良好な付着強度を示しても,積雪寒冷地等の過酷な環境下の場合等では,ダメージ部から再劣化が進行し,付着強度が低下する可能性もある。

(同マニュアル 2.5 付着面の品質)

凍結融解を受けるダムの表面も、この条件に当てはまる場合があります。ウォータージェットではつった箇所について、同じマニュアルは次の一文を置いています。

なお,過酷な条件下においては,ウォータージェット工法によるはつり箇所であっても必要に応じて同様の改善処理を検討することが望ましい。

凍結融解の厳しい現場では、どちらの方法ではつっても、下地の改善処理が検討の対象になるということです。2つを組み合わせる使い方も紹介されています。

はつり処理の浅い部分をブレーカ処理で行い,仕上げ段階で付着界面に近い部分のみにウォータージェット工法を用いるなどの工夫を行う場合もみられる。

(同マニュアル 3.2 既存コンクリートのはつり)

遠野ダムの下流面では、深さ100㎜のはつりを1,210㎡、打撃式の機械で施工しました。深さの決め方は断面修復のはつり深さ、水で削れる理由はウォータージェットの仕組みの記事で扱います。

着工前に決めること:水位・足場・水の処理

遠野ダムの補修では、工事に合わせて貯水位を下げ、その水位を保つために、10インチの水中ポンプを10基設置しました。常時は3〜4基、出水時や水位低下時には5〜10基が稼働しています。上流面は、通常時の水位より概ね1.2m上にブラケット足場を設け、その上部に枠組足場を組みました。天端の車道は2.5mと狭く、クレーンを置ける場所が限られたため、軽い型枠を選んでいます。

削りくずを含んだ水の集め方と処分先は、ウォータージェットの排水処理の記事で詳しく扱っています。

まとめ

ダムの補修工事で直す劣化は、継目からの漏水、凍結融解による表面の劣化、堤趾部の温度ひび割れなどです。 ひび割れと漏水には注入と充填、表面全体の劣化には除去と打ち換えが、事例での中心でした。遠野ダムでは、約25年後も健全だったのは打ち換えた箇所だけです。

はつりは、規模と環境で方法を選びます。打撃式は機械が小さく幅広く使われ、ウォータージェットは付着面へのダメージが少ない方法とされています。凍結融解の厳しい現場では、どちらの場合も下地の改善処理が検討の対象になります。

ご相談ください 点検結果と補修範囲の図面を見せていただければ、ウォータージェットで段取りが組めるかどうかを率直にお答えします。 注入が中心の補修や小規模なはつりなら、ほかの工法が合う場合もあります。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。


本記事で参照した資料

いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。補修事例の数値は、各資料に記載された当時のものです。工事の計画には、発注時点の最新の基準と特記仕様書で必ずご確認ください。

よくある質問

ダムの補修工事では、どんな劣化を直しますか?
継目からの漏水、凍結融解による表面の劣化、堤趾部の温度ひび割れなどです。国土技術政策総合研究所が14ダムの補修事例をまとめた調査(平成17年)で、ダムの型式と現象ごとに分類されています。
ダムのひび割れはどうやって補修しますか?
注入と充填が中心です。八塔寺川ダムでは、堤趾部のクラックにエポキシ樹脂を注入して接着し、コアで強度を確認しました。浅いひび割れには、浸透性防水材の塗布が検討された例もあります。
ダムの点検はどのくらいの頻度で行いますか?
国土交通省所管のダムでは、定期検査が3年に1回以上です。これとは別に、ダム総合点検を管理開始後30年までに着手し、以降30年程度に1回の頻度で行うことが基本とされています。
劣化したコンクリートは、どのくらいの深さまではつりますか?
決まった数字は無く、調査の結果で決めます。遠野ダムの下流面では、調査ボーリングの結果から概ね100mmとし、補修の前に試掘ハツリで劣化の程度を確かめました。作業中も試薬で確認しながら進めています。
ダムの補修にウォータージェットは使えますか?
劣化部のはつりに使えます。土木研究所のマニュアルは、付着面へのダメージが少ない方法として挙げています。一方で装置が大がかりで費用もかかるため、小規模な補修では打撃式のはつりが合う場合もあります。

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