この記事の要点
- 塩害の補修方法は、鉄筋の位置の塩化物イオン量で決まります。 国の橋梁の維持管理マニュアルは、鋼材位置で1.2kg/m³を腐食発生の限界値として判定に使っています。
- 塩害の補修工法は、塩分を「入れない」「取り除く」「腐食を抑える」の3つに分かれます。 限界値を超える塩分が内部に残っている場合、表面被覆だけでは腐食の進行を抑えきれない場合があります。
- 断面修復では、限界値を超える塩化物イオンが入った範囲をはつり取ります。 鉄筋まで塩分が届いていれば、鉄筋の裏まではつることが望ましいとされています。
コンクリートの塩害とは、海からの飛来塩分などに含まれる塩化物イオンがコンクリートに入り込み、内部の鉄筋を腐食させる劣化のことです。 鉄筋は腐食すると体積が膨らみ、かぶりのコンクリートを内側から押し広げて、ひび割れ・浮き・剥落を発生させます。この記事では、塩害を受けたコンクリートの補修工法を、国土交通省北陸地方整備局と土木研究所の資料で確かめた内容に沿って、調査から施工の順に整理しました。
判定の線:鋼材位置で1.2kg/m³
北陸地方整備局の「塩害橋梁維持管理マニュアル(案)」は、塩害による損傷の可能性を鋼材位置(スターラップ)の塩化物イオン含有量で判定します。線は1.2kg/m³。
ここでは,構造物として問題となるレベルの鉄筋腐食発生という観点から,1.2kg/m³ を限界値とした。
(北陸地方整備局 橋梁塩害対策検討委員会「塩害橋梁維持管理マニュアル(案)」平成20年4月。平成11年版コンクリート標準示方書からの抜粋として掲載)
同じ抜粋によると、腐食発生の限界濃度は条件によって0.3〜1.2kg/m³程度の幅を持ちます。1.2kg/m³は、実構造物で問題になる腐食を目安に選ばれた値です。判定を主鉄筋ではなくスターラップの位置で行う理由は、最も外側にある鋼材がスターラップで、安全側の評価になるからだと説明されています。
塩化物イオン量は、深さ方向に1〜2cmずつ測ります
補修の範囲を決める材料は、表面からの深さごとの塩化物イオン量となります。同マニュアルが定める試料の採り方は、次のとおりです。
- 表面から深さ方向に1〜2cmピッチで3試料以上採れる深さまで採取する
- 少なくとも鋼材位置(スターラップ)までのコア、または粉末試料とする
- 鋼材が密でコアが採りにくい場合は、小径コアやドリル削孔粉でもよい。φ14mmのドリル削孔粉なら8箇所程度の削孔が必要
塩化物イオンの分布は、表面が高く内部ほど低いとは限りません。同マニュアルにも、内部のほうが高くなる場合があり、ばらつくのが現状だと書かれています。1本のコアの結果を構造物全体に当てはめるには、注意が要ります。
補修工法は「入れない・取り除く・腐食を抑える」の3つです
同マニュアルは、塩害の補修工法を期待する効果で分けました。
| 期待する効果 | 工法の例 |
|---|---|
| 塩化物イオンの供給量を低減 | 表面塗装、桁カバー |
| 塩化物イオンの除去 | はつり、電気化学的脱塩 |
| 鋼材の腐食進行を抑制 | 防錆処理、電気防食、犠牲陽極材を用いた電気防食 |
| コンクリート片の剥落防止 | 叩き落し、FRP接着(剥落防止) |
塩分を取り除く方法は、はつりのほかに電気化学的脱塩があります。コンクリート表面に仮設陽極を約8週間設置し、直流電流で塩化物イオンを外へ移動させる工法です。浮きや剥離がある場合は、前処理として断面修復を行ってから適用します。PC構造物に適用する場合は、PC鋼材の水素脆性について十分な検討が必要です。
塩分が残る面は、表面被覆だけでは抑えきれない場合があります
表面被覆・表面塗装は、外から入る塩化物イオンを減らすための工法にあたります。北陸地方整備局のマニュアルには、その限界も書かれました。
すでに塩化物イオンが内在している場合や劣化が進行している場合などは,鋼材の腐食進行を抑制できない場合がある。
土木研究所の「コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル 2022年版」は、より具体的に書いています。被覆・含浸の施工後に塩分が再拡散しても、鉄筋位置が発せい限界を超えないことを確かめてから適用する、という条件です。
発せい限界を超える塩分が存在する場合には,断面修復や電気化学的工法を用いた対策が必須である。
(土木研究所資料 第4433号「コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル 2022年版」令和4年12月)
表面被覆を選ぶ前には、深さ方向の塩化物イオン量を確かめる必要があります。
はつりの範囲:限界値を超える塩分を取り切る
断面修復のはつり範囲について、土木研究所のマニュアルの記載は次のとおりです。
鋼材腐食発生限界濃度を超える塩化物イオンが浸透している範囲は確実に除去する必要があり,鉄筋が腐食していなくても塩化物イオンの浸透が鉄筋まで到達している場合には,予防処置として鉄筋裏まではつることが望ましい。
続けて、塩分は部位によってばらつくため、実際にはつりながら除去が十分かを現地で確かめるとよい、とされています。設計と状態が違えば、はつり範囲は変わります。
取り切る理由のひとつが、断面修復部の周りで起きるマクロセル腐食です。同マニュアルはこれを、多量の塩化物イオンが残る箇所を断面修復する場合の留意事項とし、「塩分を取り除けばその影響は小さくなる」と記しています。深さの考え方と、はつった状態での耐力確保は、別の記事で詳しく整理しました。(関連:断面修復のはつり深さ)
露出した鉄筋には、除塩と防せい処理を行います
塩害環境での断面修復について、同マニュアルが求めるのは、はつりで露出した鉄筋の除塩と、必要に応じた防せい処理です。除塩の方法には、鉄筋に付着したペーストを落とし、多量の流水や温水で洗う方法が挙げられています。
ただし,腐食部分に入り込んだ塩分までを完全に除去することは難しい。
防せい処理の方法は、鉄筋防せい剤や塩分吸着剤の塗布、犠牲陽極の設置などです。いずれもケレンの状況や浸透してくる塩化物イオンの量で効果が大きく変わるため、同マニュアルは「現段階では延命化方策としての位置付けで選定する」ことと、施工後のモニタリングを勧めています。腐食が著しい鉄筋は、交換や増設の対象になります。
取り残すと、数年後に修復材が剥がれます
同マニュアルの不具合事例集には、塩害の補修で起きた例が載っています。床版と桁の劣化部を断面修復し、表面被覆を重ねた数年後に、浮きとさび汁が出て、被覆材と断面修復材が剥がれ落ちました。
事例集が挙げる劣化因子と対策は、次の4つずつです。
- 想定される劣化因子:はつり不足/表面被覆材による塩分の閉じ込め/飛来塩分を含む水の浸入/断面修復材のかぶり厚さの不足
- とるべきであった対策:適切な塩分除去(鉄筋背面までのはつり)/内部鋼材の防せい処理/断面修復材のかぶり厚さの確保/内在塩分がない状態での適切な表面被覆工法の適用
補修の直後は、塩分を取り切れたかを表面から見分けられません。差が表れるのは、数年たってからです。
ウォータージェットが合う現場、合わない現場
はつりの方法について、土木研究所のマニュアルは、打撃系では鉄筋を痛めないよう注意が要り、打撃によって付着面に微細なひび割れが生じる場合がある、と注意を促しています。そのうえで、ダメージが少ない方法としてウォータージェット工法を挙げ、標準とする発注機関もあると紹介しました。
ウォータージェットは、200MPa以上に昇圧した水の水圧でコンクリートを除去する工法です。除去は劣化部から先に進み、鉄筋は内部に水が入り込まないため母材が残ります。鉄筋の裏までのはつりが必要になる塩害の断面修復で、効いてくるのはこの性質です。(関連:ウォータージェットの仕組み)
一方、同じマニュアルは、ウォータージェットは装置が大がかりで費用もかかり、全ての断面修復工事に最良とは言い難い面もある、と書いています。補修箇所が点在する小規模な現場では、打撃系のはつりが合う場合もあります。はつりに使った水の処理は、段取りに最初から含めて考えます。(関連:ウォータージェットの排水処理)
まとめ
塩害の補修は、鉄筋位置の塩化物イオン量を測るところから始まります。 国の橋梁のマニュアルでは、鋼材位置で1.2kg/m³が腐食発生の限界値として判定に使われています。
限界値を超える塩分が内部に残っていれば、表面被覆だけでは腐食の進行を抑えきれない場合があり、断面修復か電気化学的工法が必要になります。断面修復では、限界値を超えた範囲をはつり取り、露出した鉄筋の除塩と防せい処理を行います。塩分の取り残しは、数年後の剥がれとして表れる可能性があります。
ご相談ください 塩化物イオン量の調査結果と図面を見せていただければ、ウォータージェットではつる段取りが合うかどうかを率直にお答えします。 補修箇所が小さく点在する現場なら、打撃系のはつりをおすすめすることもあります。株式会社サンテックは創業から30年以上、超高圧ウォータージェット工法を専業としてきました。
本記事で参照した資料
- 国土交通省北陸地方整備局 橋梁塩害対策検討委員会「塩害橋梁維持管理マニュアル(案)」平成20年4月(2.2 詳細調査の方法/2.3.3 塩化物イオン含有量調査結果の判定/5. 対策方法の分類/付属資料 電気化学的防食工法)
- 土木研究所資料 第4433号「コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル 2022年版」令和4年12月(表面被覆・含浸工法編 施工範囲/断面修復工法編 3.2 既存コンクリートのはつり・3.3 鉄筋の処理/補修後の不具合事例集 事例18)
いずれも原典を開いて確認したうえで記載しています。判定の値や工法の選び方は、発注機関の基準で異なる場合があります。 工事の計画には、発注時点の仕様書と基準で必ずご確認ください。