下水処理場や浄化センターの水槽を覗くと、コンクリートの表面が茶色く変色し、ところどころ骨材が浮き出て、奥に鉄筋が見えていることがあります。硫化水素によってコンクリートが侵された状態です。
この上から防食材を塗り直しても、長くは持ちません。もろくなった層をきちんと取り除いてから塗るかどうかで、その後の耐久性が大きく変わるからです。この「取り除く」工程が、私たちが担っている劣化部除去です。
株式会社サンテックは、超高圧ウォータージェットによる劣化部除去を、福岡・北九州を拠点に九州各県で続けてきました。集計を取り始めた2000年からの25年間で、劣化部除去だけで1,167件・428,690㎡。当社が手がけた全施工面積465,805㎡のうち、面積でみるとおよそ92%がこの工事です。本記事では、この工事が何をしているのかを、現場の実際に即して解説します。

水処理施設の槽内でハンドガンを構える。青いカッパは水を浴びる作業の必需品
なぜ下水処理場・浄化センターのコンクリートは傷むのか
下水からは硫化水素が発生します。このガスが躯体の表面に付着すると、そこにいる微生物のはたらきによって硫酸に変わります。コンクリートはアルカリ性ですから、酸には弱い。表面から少しずつ溶かされ、もろくなっていきます。
やっかいなのは、この反応が、水に浸かっていない場所でこそ進むことです。水面より上の気相部(空気側)、とくに天井が激しく傷みます。硫化水素そのものは空気よりやや重いガスなのですが、天井には結露して水膜ができるため、そこにガスが溶け込み、細菌が住みつき、生成した硫酸が流れ落ちずに濃縮される。湿っていて、空気に触れていて、しかも洗い流されない面がいちばん傷むわけです。実際の現場でも、水に浸かっている壁より、その上の壁や天井のほうが荒れていることがよくあります。

硫化水素で侵された槽内の天井。表面が黄土色に変色し、層状に剥落している
腐食が進むと、コンクリートの表面が白っぽく、あるいは茶色く変色します。さらに進むと、鉄筋を守っている「かぶり」の部分が失われ、鉄筋が露出します。露出した鉄筋は錆び、錆びると膨張してまわりのコンクリートを押し割る。これが爆裂です。こうなると断面が痩せ、構造そのものに影響が出はじめます。

劣化が進んだ槽内。仮設足場を組んで作業する
上水道の施設では、事情が変わります。浄水場や配水池は硫化水素による腐食が基本的に起こらないため、躯体の劣化は中性化やひび割れなど別の要因が中心です。多くの現場で傷むのは表面の防食塗膜のほうで、その更新が主な仕事になります。同じ「水を扱う施設」でも、下水と上水では劣化の仕方が違います。
劣化部除去とは何か——防食工事の「下地処理」の第一段階
防食工事は、大きく三つの段階に分かれます。
第一段階が、傷んだコンクリートを取り除くこと。 これが劣化部除去で、私たちの担当です。第二段階が、痩せた断面を元に戻すこと。 モルタルなどで厚みを回復させる断面修復で、左官業者が行います。第三段階が、防食材を施すこと。 防食業者が塗装やライニングを行います。
つまり私たちは、最初の一手を担当する専門業者です。ここが甘いと、後の工程がどれだけ丁寧でも結果はついてきません。逆にここをきちんと仕上げれば、断面修復材の付きがよくなり、防食層の寿命も伸びます。
「悪い下地の上に塗るのか、いい下地の上に塗るのかで、全然変わってくる」 現場でよく口にする言葉です。仕上がった防食層の見た目は同じでも、その下がどうなっているかで持ちが変わる。だから私たちは、最初の一手にこだわります。

下水処理場の沈殿池での劣化部除去。壁面から鉄筋が露出しているのが分かる(発注者名の表示部分は伏せています)
なお、この種の工事は自治体の入札から始まることがほとんどです。入札を通った元請から工種が分かれ、設備業者、防食業者と流れて、私たちのところに来ます。私たちが直接入札に参加することは基本的になく、防食業者の方々にとっての「下地をつくる専門業者」という位置づけです。
ただし、ご相談は施設を管理される発注者の方からでも承ります。 「仕様書に劣化部除去をどう書けばよいか」「数量をどう拾えばよいか」といった発注前の段階でのお問い合わせや、現地を見せていただくご依頼も実際にいただいています。工事の経路と、相談の窓口は別のものとお考えください。
どこまで削るのか——グレーと変色、そして仕様書の削り代
この工事でいちばん難しいのは、どこまで削るかの判断です。
「健全なコンクリートはグレーです。傷んだものは変色している。まずそこを見ます」
健全なコンクリートは、イメージどおりのグレーをしています。これに対し、傷んだコンクリートは変色しています。現場では、まずこの色の違いを頼りに、取るべき範囲を見ていきます。

円筒形の槽内での劣化部除去。壁面の左側が施工前、右側が削り終えた面
削っていくと、コンクリートの表面はゴツゴツした肌になります。コンクリートは、粗骨材(砂利)と細骨材(砂)をセメントで固めたものですが、傷んでいるのはセメント分と細骨材のほうです。そこが先に取れていくので、硬い粗骨材が残って凹凸のある面になる。この「骨材が顔を出した状態」が、下地としては理想的です。表面積が増え、あとから施す材料がしっかり噛みます。
もっとも、すべてを職人の目にゆだねているわけではありません。除去の前提は、発注仕様書によって決まります。 下水道施設の防食工事では、採用される防食被覆の種別や要求される下地の品質に応じて、どこまで落とすかの考え方が変わります。現場ごとに「この深さまで削る」と削り代が指定されることも多く、その場合は指定に従って仕上げます。色を見て判断する部分と、寸法で管理する部分の両方がある、というのが実際です。
私たちは、仕様書と現場の状態を突き合わせたうえで、削り代の考え方を元請・防食業者と事前にすり合わせるようにしています。この判断を、25年で1,167件・428,690㎡繰り返してきました。
削り代の相談だけでも承ります 「仕様書にどう書けばよいか」「この劣化はどこまで落とすべきか」——決まっていない段階のご相談が、いちばん多くいただくご依頼です。
なぜウォータージェットか——斫り・ブラストとの違い
劣化部を取り除く方法は、ほかにもあります。ブレーカーやチッパーで斫る方法が古くからありますし、研削やブラストで削る方法もあります。それでも下水処理施設でウォータージェットが選ばれるのには、理由があります。
| 斫り(ブレーカー等) | 研削・ブラスト | 超高圧ウォータージェット | |
|---|---|---|---|
| 鉄筋への影響 | 打撃・変形の懸念 | 影響は小さい | 母材を残しつつ錆を除去 |
| 健全部への微細ひび | 生じやすい | 小さい | 生じにくい |
| 振動 | 大きい | 中程度 | 打撃振動がない |
| 粉じん | 多い | 多い | 湿式で抑えやすい(飛沫養生は必要) |
| 複雑形状・曲面 | 苦手 | 苦手 | 対応しやすい |
| 濁水処理 | 不要 | 不要 | 必要 |
第一に、鉄筋を傷めにくいこと。 水は、ひび割れや空隙のある劣化コンクリートには内部まで入り込み、圧力で内側から崩していきます。一方、緻密で延性のある鋼材は、研磨材を混ぜないこの圧力域では侵食されにくい。そのため鉄筋の母材は残したまま、付着した錆や脆弱物だけを落とせます。打撃で斫るときのように鉄筋を叩いたり曲げたりする懸念が小さく、そのまま防錆処理や断面修復へ引き渡せます。
当社が使う超高圧水発生装置の吐出圧力は0〜240MPa、水量は最大30L/min程度。この圧力・水量とノズルの組み合わせを、対象の劣化具合に合わせて調整します。 (なお、超高圧水に研磨材を混合すれば金属の切断も可能です。同じ装置でも、研磨材の有無と圧力・水量の設定によって働きが変わります。)

ハンドガンによる施工。反力を身体で受け止めながら面を送る
第二に、健全な部分を残しやすいこと。 水は、もろくなった部分から先に崩していきます。硬く締まった健全部は削れにくい。この性質のおかげで、「取るべきところを取り、残すべきところを残す」除去がしやすくなります。
第三に、打撃による振動を与えないこと。 稼働中の施設や、近隣に配慮が必要な現場では、これが効きます。水を使う湿式なので、粉じんも乾式の工法に比べれば抑えやすい。ただしまったく出ないわけではなく、飛沫やミストへの養生は現場ごとに必要です。
なお、ハンドガンでの作業音は大きく、ハンドガンの近辺では約120dBに達します。削りカスと洗浄水を同時に回収する吸引型アクアブラスト(約80dB・約80㎡/日)もありますが、置き換えられるのは表面の浅い処理に限られます。深い除去の音は、防音シートの設置や作業時間帯の調整で抑えます。
第四に、形状を選ばないこと。 ノズルは対象に触れません。円形の水槽、湾曲した壁、入り組んだ角——刃物や打撃工具では扱いにくい形にも入っていけます。

吸引型アクアブラスト。削りカスと洗浄水をその場で吸引する
現場はこうなっている——面積・装置・段取り
下水処理施設の仕事は、水を抜いた槽の中に入って行います。閉ざされた空間で、足場を組み、照明を引き、換気をしながらの作業です。

槽内に組んだ足場の上での作業。照明と換気を引き込む

工場内の深い処理槽。底部まで足場を下ろして施工する
面積の実際
規模は現場によりますが、一つの槽で数百㎡というのが標準的なところです。当社が手がけてきた案件でも、消化槽で814㎡、沈殿池で896㎡と850㎡、浄化センターで505㎡——このくらいの規模の工事が続いています。
工期と費用を動かすもの
工期は現場条件で大きく変わるため、面積だけでは決まりません。主に次の4点が効きます。
- 削り代の指定深さ — どこまで落とすかで、進み方が変わります
- 足場の有無と槽の形状 — 仮設の規模と、施工姿勢に影響します
- 濁水処理の方法と搬出条件 — 人力か機械か、処理設備をどこに置けるか
- 稼働中か、全面停止か — 系統を止められる範囲と時間帯の制約
お見積りの際は、この4点を最初に確認させていただいています。
装置
装置は4t車に搭載した超高圧水発生装置と、2t車のエアーコンプレッサーで現場へ入ります。超高圧水発生装置で水を昇圧し、ホースでガンまで送る構成です。対象や仕上がりに応じて、面を均一に削るハンド回転ガン、削りカスと洗浄水をその場で吸引するアクアブラストなど、6種類のガンから選んで使い分けます。

4トン車に搭載した超高圧水発生装置。背景は消化槽

ハンド回転ガン。面を均一に削るのに使う

吸引型アクアブラストのヘッド
安全と、環境への配慮
正直にお伝えしておくべきことがあります。この現場は、条件のよい仕事ではありません。
硫化水素は人体に有害です。濃度によっては命に関わります。加えて閉ざされた空間ですから、酸素欠乏の危険もあります。ガス測定、強制換気、保護具、監視体制——これらを省略できる場面はひとつもありません。
また、超高圧の水そのものが危険です。当社が扱う圧力域の水が人体に当たれば、重大な事故になります。
だからこそ、酸素欠乏・硫化水素危険作業に必要な体制を組んだうえで現場に入ります。ガスの測定、換気の確保、保護具、退避の手順。作業手順と安全のルールは、入社後に一つずつ教え込みます。事前に安全対策の資料を出し、そのとおりに現場で実行する。「どのくらいの音が、どの時間帯に、何日出るか」を含めて、先に紙にして共有します。
環境面では、作業で生じる濁水の処理が必要です。ウォータージェットは「水だけを使うきれいな工法」と語られがちですが、削りカスを含んだ水は適切に処理しなければなりません。この段取りを工程に織り込んでおくことも、私たちの仕事のうちです。
決して楽な仕事ではありません。それでもこの仕事を選び、続けてきた人間が現場にいます。「3K上等」——社内で交わされる言葉です。
削り上がりに、腕の差が出ます
同じ装置で、同じ圧力をかけても、仕上がりは人によって変わります。 ハンドガンは噴射の反力を身体で受け止めながら操作するため、同じ角度・同じ幅で面を送り続けられるかどうかで差が出ます。
「削り上がりのグレードが、目で見て分かります。全然違うんです」
削り面にムラがあれば、あとから施す断面修復材の付きが変わります。削りすぎれば断面を余計に痩せさせ、削り足りなければ弱い層が残る。均一に仕上げられるかどうかが、そのまま防食層の寿命に効いてきます。
当社では一人前になるまでに5年以上をかけ、最初に叩き込むのは機械の構造の知識です。現場は一つとして同じものがないので、知識がなければ応用が効きません。装置のメンテナンスも社内で行っており、その日の水量に合わせてどのガンが適正かを判断できるのは、中身を分かっているからです。
その差は工期にも出ます。同業者が3日かかる仕事を、2日で仕上げることがあります。 劣化部除去を主力にしていない業者が入ると判断に迷って時間がかかり、仕上がりにもばらつきが出やすい。工期が読めることは、後工程を待たせないという意味でもあります。

地下構造物の天井。かぶりが失われ、断面が大きく欠損している
施工の流れ
- 現地調査 — 劣化の範囲と程度、鉄筋の状態、槽の形状、電源と給水、搬入経路、換気の条件を確認します
- 計画 — 削り代と範囲、足場、換気、濁水処理、工程を組みます。前述の4点をこの段階で詰めます
- 準備 — 装置を搬入し、足場・照明・換気設備を設置します
- 除去 — 圧力・水量・ガンを対象に合わせて設定します。槽の形状と濁水条件に応じて、6種類のガンから選定します
- 確認 — 除去状態と鉄筋の状態を写真で記録し、断面修復業者へ引き渡す際の資料としてお渡しします
- 引き渡し — 断面修復・防食工事の工程へつなぎます
福岡・北九州から九州・沖縄へ|25年1,167件の劣化部除去
当社の劣化部除去の実績は、25年間で1,167件・428,690㎡です。全体では1,530件・465,805㎡を手がけてきました。面積でみると、そのおよそ92%が劣化部除去にあたります。年間の物件数は、2000年当時の30件前後から、近年は80〜90件台へと増えました。
拠点は北九州市(事業センター)、福岡県糟屋郡(福岡営業所)、沖縄市(沖縄事業所)。案件の分布も福岡県を中心に、大分・熊本・宮崎・鹿児島・広島・長崎・佐賀、そして沖縄と、九州・沖縄が主戦場です。地元の施設を、地元の人間が繰り返し見てきた蓄積があります。
創業から30年以上、ウォータージェット一筋でやってきました。ただ、長く続けてきたこと自体が品質の保証になるとは考えていません。1,167件という数は、それだけ削り上がりを見比べ、失敗も含めて判断を積み重ねてきた回数でもあります。
下水処理場も浄水場も、誰かが手を入れ続けなければ使えなくなります。しかもその現場は、暗く、狭く、有害ガスを警戒しながら入る場所です。そういう場所こそ自分たちの持ち場だと考えています。取り除くという最初の一手を確実にやることが、施設を長く使えるかどうかに直結します。
まとめ|劣化部除去を検討するときの確認ポイント
下水処理場や浄化センターの躯体は、硫化水素によってコンクリートが腐食し、放っておけば鉄筋の露出や爆裂に進みます。補修では、もろくなった層を確実に取り除いてから次の工程へ渡すことが品質を決めます。
ウォータージェットによる劣化部除去は、鉄筋を傷めにくく、健全な部分を残し、打撃による振動を与えずにこの工程を行える工法です。一方で、濁水の処理が必要であること、硫化水素や酸欠への備えが欠かせないことも、あわせてご理解ください。
検討にあたっては、①削り代の考え方をすり合わせられるか ②濁水処理まで含めた段取りを提示できるか ③閉所・有害ガス環境での安全体制があるか ④施工記録を次工程へ引き渡せるか——この4点を確認されることをおすすめします。
ご相談ください 「この槽の劣化はどの程度か」「どこまで削るべきか」という段階からご相談いただけます。現場の写真と図面(劣化状況が分かるものがあれば、なお助かります)をお送りいただければ、除去範囲の考え方、必要な段取り、概算の工程をお返しします。 防食業者・元請の方はもちろん、施設を管理される発注者の方からのご相談も承ります。 対応エリア:福岡・北九州を中心に九州全県、沖縄。条件によりそれ以外の地域もご相談ください。 お電話:093-475-7263(事業センター)